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堀厩舎の支えがある限り、晩成の血はゆっくりと、着実に開花していくはず
文/吉田竜作(大阪スポーツ)、写真/川井博


ドゥラメンテにとって、相手はいわゆる他馬ではなかったはずだ。G1初制覇となった皐月賞では4コーナー入口でインに進路を求めたものの、その瞬間に外へと跳ねるように飛んで行ってしまう。この時は他馬の被害が大きくなかったために失格という憂き目には遭わずに済んだが、誰もがその破壊力と、同時に含み持つ危うさも感じ取ったことだろう。そして、それはファンである我々以上に堀調教師厩舎スタッフが改めて「課題」と痛感したに違いない。

皐月賞からダービーまでは中5週という微妙な間隔が空く。これをいかに使うか。毎年のように関係者が頭を悩ませるところだ。

激戦のストレスをリセットするために放牧に出す…リアルスティールがしたように、牧場と連携をして近郊の牧場で調整するやり方もあったに違いない。そして、今は美浦トレセンの近郊にもノーザンF天栄という関連の施設もある。ドゥラメンテ堀調教師もこの選択をすることも可能だったはずだ。いや、近年の傾向からすれば、一度放牧に出て牧場サイドのチェックを挟むことの方が多いといっていいだろう。

しかし、堀調教師は手元に置いてドゥラメンテ“再調整”することを選んだ。言うのは容易い。しかし、これで結果が出なければ…一気に牧場サイドの信頼を失うかもしれない。そんなリスクを背負う選択だった。

ダービー当日のパドックを見て驚いた人も多かったことだろう。耳を前に向けたまま、少しも動かさずに淡々と落ち着いて歩いていたドゥラメンテ。これまでの幼さが抜け、レースに対しての集中力などはこれまでに見せたことのないもの。まさに、少年から青年と呼ぶにふさわしい姿へ変貌を遂げていた。

もちろん、ドゥラメンテ天分の才は否定しない。しかし、どれだけ破壊力を秘めるサラブレッドでも、それを発揮できなければただの凡馬だ。そして、今や日本を代表するトレーナーとなりつつある堀調教師、その下で働くスタッフは厳しいプレッシャーの中、淡々とこの難解な課題と向き合い、労を惜しむことなく力を尽くしてドゥラメンテを正しい道へと導いた。東西逆転、世代交代…そんな言葉では表現しきれない「何か」が今の日本競馬界では起きつつあると見ていいだろう。

ひと皮むけた皐月賞馬は、また極上のレース運びを見せる。「1、2コーナーで少し行きたがって危なかった」と振り返ったM・デムーロだが、見た目に「危機」を感じた人はいなかったことだろう。うまくなだめて人馬の呼吸を合わせると、そこからは1000m通過が58秒8というハイペースも手伝って、折り合いを欠くこともなくスムーズに中団の外目を進む。

前走と立場が変わって、今度は皐月賞②着馬リアルスティールからマークをされることになったが、おそらくデムーロの視界と思考には入っていなかったことだろう。タイトにコーナーを回って直線に向くと、後方の出方などお構いなしにゴーサイン。やや斜めに切り込むシーンはあったが、最初の加速でリアルらのマークをいとも簡単に振り切ってしまう。

ラスト300m地点で②着となるサトノラーゼンを並ぶ間もなく交わし去ると、あとはひたすらにゴールを目指すだけ。皐月賞のように抜け切ってから気を抜くような仕草はみせず、今回は末脚もブレることがない。第82回ダービー馬という名誉にふさわしい走りで、この歴史的な1戦を締めくくった。

ハイペースの中で自ら動いて差し切った結果、ついてきたのは父キングカメハメハの樹立したレコードをコンマ1塗り替える2分23秒2というタイム。「ネオユニヴァースよりもすごいかもしれない。強いよ、この馬」とたどたどしくも、興奮を隠し切れない口ぶりでドゥラメンテ破壊力を表現しようとするデムーロ。これだけの名手を興奮させ、母国語でもない日本語で何とか「伝えたい」と思わせるのがドゥラメンテ。もはや「2冠」という言葉さえ陳腐に響く。

リアルスティール福永に言わせれば「まだ完成途上で、その中で1番を決める難しいレース」が、このダービーリアルも確かに未完成な部分は多かった。しかし、それはこの2冠馬とて同じ事。この血統はオクテであり、事実、ドゥラメンテにまだこの血統特有の「丸み」がない。トモの肉付きなどはまだまだ良化の余地を感じさせるものだった。

サラブレッドの成長は様々で、人智の及ぶことがないことは承知だ。しかし、それでも「この世代は1強」と言い切れるポテンシャルドゥラメンテが秘めているのに、異論を唱える人は少ないことだろう。そして、この馬を支える堀厩舎がある限り、晩成の血はゆっくりと、着実に開花していくはずだ。花開いたその先にどのような光景を見せてくれるのか。ムーランルージュをバックにドゥラメンテデムーロが収まる…この日の走りはそんな予感を強く感じさせるものだった。