“分かっていても対処できない”マクリだったのかもしれない
文/編集部(T)、写真/川井博
野球を見ていると、
「あのボールは分かっていても打てませんね」と解説者が言うことがある。その理由が、例えば
ダルビッシュ投手が投げるスライダーのような鋭い変化球だったり、
大谷投手が投げる剛速球だったりすれば自分でもよく分かるのだが、
「あれがなんで打てないの?」と思うこともけっこうある。
プロに言わせると、たとえば同じようなコースに投げたボールであっても、それがバッターに対する初球なのか、2ストライクに追い込んだ後の決め球であるかでも変わるらしい。言わんとすることは分かる気もするのだが、正直なところ素人の自分だと
見るだけでは分からない。
競馬も似たようなところはある。人気薄が逃げ切ると
「なぜ早めに仕掛けなかった?」や、
「あそこで行けば届いたのに」と言われるし、直線で前が詰まると
「あそこで内を突かなければ」などといわれる。もちろん自分もそう思うことは多いのですが……。
もちろん、騎手の方々がそうした、またはそうできなかった理由はあるだろう。早めに仕掛けたら直線で止まるリスクはあるし、外を回したら距離ロスが大きくなる危険性も高くなる。それ以外にも、見ているだけでは分からない様々な理由があるという。
とはいえ、馬券を買っている自分たちも意見を持つのは自由だし、その権利もあるはず。
M.キネーン元騎手は
「競馬はいろいろな立場から様々な意見を出せるスポーツだ」と言っていたが、それも競馬の良さなのだろう。
なぜこのような話を思い出したかというと、今回の
エルムSを制した
ジェベルムーサの戦法が、あまりに
「分かりやすい」からだ。
これまでの
ジェベルムーサの勝ちパターンは、出遅れから向正面で一気に進出し、そのまま押し切るというもの。今回はいつもより良いスタートを切ったが、
岩田騎手は慌てず騒がずいつものように後方へ。そしていつものように向正面でエンジンを吹かして外を通って進出し、4角で先頭に立って②着
グレープブランデーの追撃を振り切った。
このレースを含め、OPでの
ジェベルムーサは
4角4番手以内だと①②④①③①着、
5番手以下だと④⑥⑨着。昨年の
エルムSはマクリ不発(4角5番手)から⑥着に敗れている。
4コーナーである程度前にいるかどうかで結果が大きく変わっている。
素人目からは穴も大きい戦法に見えるだけに、他馬の馬券を買っている方からすると、
「なぜマクってくるのが分かっているのに対応できないのか」と思うだろう。
ただ、実際どのような対応をするかを考えると、これが難しい気もする。4角までに進出させまいとすると、レース前半で内に閉じ込めるか、もしくは早めに仕掛けるしかなさそうだが、自分のレースができなくなる危険性も高くなるだろう。道中で徹底マークするにしても、向正面で速い脚で上がっていき、最後まで保たせるのも難しそうだ。
今回については、
“分かっていても対処できなかった”可能性もあるのではないだろうか。
ただ、
ジェベルムーサが1000万以上で挙げた5勝は福島、中山(2勝)、函館、札幌で、いずれも
直線が短いコース。この戦法はコース形態にも大きく左右されそうなので、ダートG1が開催される
東京や中京で通用するかという課題はあるだろう。
今後は
“コースにかかわらず、分かっていても対処できないマクリ” に昇華できるか。騎手の手綱捌きにも大きく左右されそうなだけに、鞍上も含めて注目したい。
また、②着
グレープブランデー、③着
エーシンモアオバーは先日惜しまれつつ亡くなった
マンハッタンカフェ産駒。
グレープブランデーの連対は13年
フェブラリーS(①着)以来2年半ぶり、
エーシンモアオバーが中央で馬券圏内に入ったのは13年
エルムS(②着)以来で、
エルムSは6年連続の出走で馬券圏内に入ったのは4回目となる。
“亡くなった種牡馬の子は走る”とはよくいわれるが、1番人気の
クリノスターオーなどの追撃を凌いでのものだけに、これは大健闘だろう。
マンハッタンカフェはまだ有力な後継種牡馬が少ないだけに、ベテラン勢が今後もうひと花を咲かせられるか、こちらにも期待したいところだ。