その衝撃はカルストンライトオに次ぐほどだった
文/編集部(M)、写真/森鷹史
私事で恐縮だが、先日、父が亡くなり、法要が行われた。私の代わりにその父が天国で
サクラバクシンオーに
怒られているんじゃないかと心配になった。「メインレースの考え方」で、
サクラバクシンオー産駒は
13年以降の芝1200m重賞で[0.3.1.54]と勝てていない、などと書いてしまったからだ。
第50回の
北九州記念は終わってみれば
サクラバクシンオー産駒の
ベルカントが快勝し、②着にも
ビッグアーサーが入って、
サクラバクシンオー産駒の
ワンツーフィニッシュとなった。
サクラバクシンオーさん、どうもすみませんでした……。
5戦全勝でここに挑戦し、1番人気に支持されて②着まで上がった
ビッグアーサーは立派だったと思うが、それ以上に
ベルカントの強さが光ったレースだったと言えるだろう。実質トップハンデの
55kgを背負い、ハイペースで先行馬を見る位置に付け、直線であっさり抜け出してみせた。4角5番手以内に付けてひと桁着順に入ったのは
ベルカントだけだった。
アイビスサマーダッシュを勝ち、次走の
芝1200m重賞でも勝利を収める例は過去にいくつもあったが、この
北九州記念とは相性が悪かった。
アイビスサマーダッシュで③着以内に入り、次走で
北九州記念に挑戦した馬は[0.0.2.6]で
連対馬ゼロ。
ベルカントはそれを覆したどころか、
アイビスサマーダッシュに続いて、ここでも
大きな差を付けたのだから驚いた。
アイビスサマーダッシュは
2馬身差の快勝で、今回の
北九州記念は
1馬身半差。
芝1000mの重賞と
芝1200mの重賞を両方とも
1馬身以上の差を付けて勝った馬は、なかなか珍しいものだ。
01年の第1回
アイビスサマーダッシュの勝ち馬
メジロダーリングは同レースを
1馬身半差で勝ち、前走の
函館スプリントSでは
2馬身半差の快勝劇を演じていた。ご存知の通り、
メジロダーリングは
アイビスサマーダッシュの次走で
スプリンターズSに挑戦し、クビ差②着となっている(勝ち馬は
トロットスター)。
また、
カノヤザクラは08年に
セントウルSを
1馬身1/4差で勝利し、翌年の
アイビスサマーダッシュでは
1馬身半差で快勝している。同馬はその後に
北九州記念③着→
セントウルS④着となったが、
スプリンターズSで③着に食い込んでいる。
スプリンターズSの前にこの実績を残したのは上記の2頭だけだから、
2馬身差(
アイビスサマーダッシュ)→
1馬身1/2差(
北九州記念)で連勝した
ベルカントは、
スプリンターズSでの
好走も約束されたと言えるのかもしれない。
ちなみに、
芝1000mの重賞と
芝1200mの重賞の両方で最大の快勝劇を演じたと言えるのは、
カルストンライトオだろう。
カルストンライトオは02年に
アイビスサマーダッシュを
2馬身差で制し、04年にも同レースを
3馬身差で圧勝している。その卓越したスピードを武器にして、04年には不良馬場で行われた
スプリンターズSを
4馬身差で快勝した。
今回の
ベルカントの連勝劇は、さすがに
カルストンライトオの
衝撃には及ばないだろうが、それに次ぐほどのものだったように思う。
スプリント界の頂点に躍り出るだけのパフォーマンスであったと言えるだろう。
それにしても、驚くのは、鞍上の
武豊騎手が
ベルカントのことを
「難しい面のある馬」と語っていることだ。今回は
「細心の注意を払って騎乗した」とのことだったが、いったいどこに
難しい面があるのだろう?と思うほど、スムーズなレースをしていた。
武豊騎手は
「武豊TV!Ⅱ」でのレース解説でも、よく
「この馬は乗り難しい面があるんです」と話すことがあるが、そんな馬でも、素人目にはきっちり
結果を出していることが非常に多いように感じる。
難しい面をまったく出させず、
好走に結び付けることがとても多いように思うのだ。
北九州記念が行われた23日の小倉7R(未勝利、ダート1000m)では、
武豊騎手は
メイショウフライキ(7番人気)に騎乗していた。同馬は穴ぐさ💨で、好走と凡走の差が激しいタイプだったが、外をスムーズに先行させて
②着に入った。もちろんこの時期の未勝利戦だから勝つのがベストだったのだろうが、それでも
ベストのレースを見せていたように映った。
今夏の
武豊騎手では
イッテツも忘れられない馬で、同馬は7月19日に函館の
下北半島特別(500万、芝1200m)を
7番人気で勝ち、その次走では昇級初戦で距離延長となった
STV賞(1000万、札幌芝1500m)でも
③着(4番人気)に粘った。この馬も好走と凡走の差が激しいタイプだが、
武豊騎手が騎乗した時は
①①③着と好走を繰り返している(その3戦以外では③⑨⑬⑫着)。
今回の
ベルカントは
ハンデや
アイビスサマーダッシュの強さを逆に不安に思い、父(
サクラバクシンオー)の血統データも付け足して評価を下げてしまったが、好走と凡走の差が激しい
難しいタイプに
武豊騎手が騎乗する時こそ
注目すべきだったのかもしれない。
スプリンターズSでどんな騎乗を見せてくれるのか、目を離さないようにしたい。