栄光へ向けた足がかりを作ったレースになったはず
文/浅田知広、写真/川井博
2012年が
アドマイヤオウジャと
コディーノ(翌年、
皐月賞③着)。13年が
プライマリーコードと
バウンスシャッセ(翌年、
オークス③着)。そして昨年は
レッツゴードンキ(翌年、
桜花賞①着)と
フローレスダンサー。とりあえず北海道デビュー馬とはわかるかもしれないが、それが各年2頭ずつで、
桜花賞馬もいれば1勝馬もあり。いったいこれはなんなんだ、という面々だ。
正解は、北海道の芝1800m
2歳新馬・未勝利戦(良馬場)において、
1000mの通過タイムが各年2番目と3番目に遅かったレースの勝ち馬である。北海道開催が短縮されてからの過去3年、
毎年この中から翌春のクラシック③着以内馬が誕生しているのだ。さらに言えば、1番遅くても、逆にもっと速くてもダメで、なぜか遅い方から2~3番目からだけしか、クラシック③着以内馬は誕生していない(2~3番目以外だと、
ローブティサージュが
2歳G1・阪神JFを制した)。
どうしてこんなデータを調べたかと言えば、
札幌2歳Sで1番人気に推された
プロフェットの
新馬戦が、1000m通過65秒5で遅い方から3番目。そして2番人気に推された
アドマイヤエイカンの
新馬戦が66秒9で、2番目だったからだ。
まあ、先のことはさておくとして。そんな超スローペースの
新馬戦を勝ち上がってきた、
プロフェットと
アドマイヤエイカンが1、2番人気を占めた今年の
札幌2歳S。まず最初の重賞で、来年に期待を抱かせるような走りを見せられるかどうかに注目していた。
この2頭、
新馬戦では自らペースを作って逃げ切っていたが、今回はともに外めの枠でもあり、控える形。そしてハナを切ったのは、過去4戦逃げたことのない
ネコダンサーだった。お馴染み
ネコパンチや
ネコタイショウ、そして大井の重賞で逃げたこともある
ネコイッチョクセンに続けとばかり……話が脱線しそうなのでやめておこう。
その
ネコダンサーの800m通過は49秒5、そして1000mが61秒9。稍重の馬場を考慮すればこんなもの、人気2頭にとっては前走よりかなり速いペースだ。
注目の
プロフェットは中団6~7番手を追走し、
アドマイヤエイカンはその後ろの10番手あたり。しかし、両馬の行きっぷりは明らかに異なり、
プロフェットはまったく楽。一方、
アドマイヤエイカンはペースの違いか気性面なのか、ときおり気合いを入れつつの追走となった。
そんな手応え通り、勝負どころの3コーナーにかかると、
ルメール騎手と
プロフェットはほぼ馬なりのまま、前を射程圏に捕らえる4番手の外まで進出。この動きを見逃すわけにはいかない
アドマイヤエイカンは、
岩田騎手が激しく手を動かし、その外へと併せていった。
この2頭が先行集団をまくり切る形で直線へ。いったんは、手応えとコーナーワークの差で
プロフェットが1馬身近く前へ出たものの、いかにも追われて味のありそうな
アドマイヤエイカンもこれに食い下がり、2頭ほとんど並んで残り100mを通過。ここから内の
ルメール、外の
岩田両騎手の見応えある追い比べがゴールまで続き、最後は際どいクビの上げ下げ。わずかに外の
アドマイヤエイカンが、内の
プロフェットを抑えて
札幌2歳Sのタイトルを手中にしたのだった。
実は冒頭に挙げた6頭のうち、次走で
札幌2歳Sに出走した
コディーノ(①着)、
バウンスシャッセ(⑭着)、
レッツゴードンキ(③着)はクラシックで好走し、次走が他のレースだった残る3頭はクラシック不出走。
アドマイヤエイカンと
プロフェットは、この
札幌2歳Sに出走しただけで、
クラシック③着以内の権利を得ていたのかもしれない。そして、そのレース内容も十分に
「来年に期待を抱かせる」好勝負を演じてくれたと言えるだろう。
優勝した
アドマイヤエイカン(
父ハーツクライ)は、
99年の桜花賞②着馬
フサイチエアデールのおい。一方の
プロフェット(
父ハービンジャー)は、昨年の
皐月賞②着馬
トゥザワールドなどの近親になる。せっかく好勝負を見せてくれた後にこんなことを言うのも気が引けるが、どちらの牝系も
「クラシックを勝てそうで勝てないんだよなあ」という印象もなきにしもあらず、である。
そんな牝系出身の両馬に
「③着以内の権利」などと言っても、あまり喜んではもらえなさそうで、本当に手にしたいのはもちろん「①着」。今回はまず、
その栄光へ向けた足がかりを作ったレースになったのは間違いないはず。今後も、こんな因果関係のはっきりしないデータなど
無意味に思えるような快走を続け、来年のクラシックに堂々主役として駒を進めてくれることを期待したい。