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「ハマったレース」とだけ結論付けて片づけるにはもったいない
文/編集部(W)、写真/川井博


この『速攻レースインプレッション』の原稿を書く時は、ある程度、書く内容の方向性を決めて臨むことにしている。この馬が勝ったらこの内容で書こうとか、こういう決着ならこのデータを引用してまとめようとか。それこそ“速攻”なので、スピードが求められる原稿だからだ。

ところが、今年の京成杯AHはその準備がまったくできなかった。準備ができないというよりは、いろいろ考えても考えがまとまらないというか、多くの馬に勝つチャンスがありそうで、なおかつ、その多くの馬が勝ち切れなくても驚かないメンバーだったから。

結果はとんでもない大荒れに。これは3億9566万3730円WIN5を的中させた人にも想像できなかったのではないでしょうか。関屋記念を勝ったレッドアリオンがシンガリ負け(⑯着)、中京記念を勝ったスマートオリオンがブービー(⑮着)ですよ!(しかも、サマーマイルシリーズはこの2頭が同点優勝)。

掲示板内に目を向けると、上位5頭(フラアンジェリコエキストラエンドヤングマンパワーグランシルクショウナンアチーヴ)はタイム差なしの1分33秒5で駆けていて、着差はハナ、ハナ、アタマ、ハナ。いかに大接戦だったかがよくわかる。

その5頭は順に13、11、7、3、14番人気で、上位人気はグランシルクくらい。グランシルクはスタート直後に接触して位置取りを悪くする不利があり、それを考えると健闘と言える。ヤングマンパワーは22kg減(518kg)だったが、スローペースで外、外を回りながら馬券圏内を確保したのは力のある証拠だろう。

アルビアーノは掲示板外の⑦着に敗れたものの、着差は0秒1差。4角で逃げていたケイティープライドを交わし、早め先頭から押し切りを図るという積極的に勝ちにいく競馬での結果なら悪くない。3歳馬3頭はそれなり力を示したと言えるのではないだろうか。

その3歳馬を抑えてワンツーしたのがベテラン勢の7歳フラアンジェリコ、6歳エキストラエンドだった。順に53kg、57kgというハンデを見ると、エキストラエンドは勝ちに等しい②着と思えるが、7歳馬による京成杯AH制覇は史上初で、フラアンジェリコの勝利は歴史的快挙だろう。

前半3F通過は35秒4で、これは10年と同じ。この年は2番手追走のファイアーフロートが押し切っていて、普通なら前が残る流れ。だが、エアレーション作業を施された中山芝は開幕日から差しがよく届き、土曜日の中山6R(3歳未勝利、芝1600m)では大外枠(8枠15番)のハッピームーンが直線で外から差し切りを決めていた。

フラアンジェリコは馬場を味方にできた1頭だろう。スローペースで馬群が団子状態というのも、決め手のある差し馬には有利な展開だが、フラアンジェリコは今回、7歳9月、37戦目にして自己ベストの上がり33秒6を計時している。

スローペースで最後方追走となれば、道中で早めに動きたくなるところ。だが、田辺騎手は追い出しを我慢。4コーナーでも我慢。直線に向いてもまだ追わず、外目に進路を見つけてからようやく追いに入り、末脚を爆発させて馬群を割って鋭伸した。この脚を引き出したのは田辺騎手の手腕に他ならないだろう。

13番人気というほぼノーマークに近い立場だからこそ、思い切った騎乗ができたのかもしれないが、「ハマったレース」とだけ結論付けて片づけるにはもったいない。蝶のように舞い、蜂のように刺すモハメド・アリならぬ“蜂のように差す”田辺騎手、恐るべしである。

なお、アルビアーノが⑦着に敗れたことで、京成杯AHにおける1番人気は13連敗となった。その成績は[0.0.2.11]で、勝てていないどころか②着もない。1番人気で勝利していたブレイクタイム(02年)、シンボリインディ(00年)などは芝1600mのG1で連対歴があったから、アルビアーノ(NHKマイルC②着)なら歴史の流れを変える馬かもと期待したが…。

ちなみに今回を含め、フラアンジェリコ&田辺騎手は中山芝1600mで①②②①着。期待するならこっちだったかぁ…。