この重賞制覇は競馬の、血統の醍醐味だろう
文/編集部(M)、写真/川井博
1番人気の
イモータルはデビュー戦の前走が
5馬身差の快勝で、2番人気の
アストラエンブレムは前走(未勝利戦①着)が
4馬身差。3番人気の
ハレルヤボーイも前走の未勝利勝ちが
5馬身差、4番人気の
ブレイブスマッシュも
5馬身差で、前走で
派手な勝ちっぷりを収めた4頭が上位人気に推された。
4頭に続く5番人気となったのが
リセエンヌで、その上位人気5頭が
掲示板を独占する結果となったが、優勝したのは4番人気だった
ブレイブスマッシュだった。2走前の未勝利戦(新潟芝外1600m)では
アストラエンブレムに4馬身差を付けられたのだが、今回は内目をロスなく走り、
立ち回りの上手さを見せて上位人気2頭の追撃を凌ぎ切った。
レースを見ていた人は分かる通り、8枠の2頭(
イモータル、
アストラエンブレム)は終始外を回り、最後に急追して勢いでは勝ち馬を上回っていた。このため、次走以降にもしこの3頭が激突したら、
上位人気となるのは
イモータルや
アストラエンブレムの方だと思われる。
ただ、今回の勝ち馬は
ブレイブスマッシュで、早めに先頭に立って馬自身が気を抜いた面もあったようだから、その点は覚えておいた方が良さそうだ。
器用さが重要になる局面というのも、今後に
多頭数の競馬となれば出てきそうでもある。
何より今回は、
ブレイブスマッシュの馬主である
島川隆哉氏が自らの手で
トーセンファントム(
ブレイブスマッシュの父)に
重賞タイトルを贈ったことが素晴らしいだろう。
トーセンファントムは2歳時に4戦(3勝)して引退した馬で(
エイシンフラッシュ、
ヴィクトワールピサ、
ローズキングダムらと同世代)、2011年から種牡馬となった。2歳時にOP特別だった
いちょうSを制していて、言ってみれば今回の
ブレイブスマッシュでの勝利は
“父子制覇”ということだ。
トーセンファントムについて、種牡馬入り後の
種付け頭数と
産駒数を調べてみたところ、11年が27頭(産駒17頭)、12年が31頭(産駒25頭)、13年が23頭(産駒16頭)、14年が7頭となっている。JRAに登録されている産駒数は、初年度世代(現3歳世代)が
14頭で、2世代目(現2歳世代)が
21頭(2015年10月10日現在)。この中から
ブレイブスマッシュと
ハレルヤボーイという2頭が今回のレースに出走し、
重賞ウイナーが誕生したのだから素晴らしい。
トーセンファントムの初年度産駒(現3歳世代)は、現時点(2015年10月12日時点)で勝ち上がった馬が1頭だけで、それは
トーセンラムセス(牡3、美・奥平)だ。
トーセンラムセスの母は
スマイルサポートという馬で、同馬は不出走なので知らない人も多いと思うが、
ホワイトウォーターアフェアの娘で、つまり
ヴィクトワールピサや
アサクサデンエンのきょうだい(姉・妹)にあたる。その牝系からは
ローブティサージュも出ているから、
良血と言って差し支えないだろう。
トーセンファントムの現2歳世代は3頭が勝ち上がっていて、
ブレイブスマッシュ、
ハレルヤボーイの他に
クローバー賞を勝った
マシェリガールもいる。
マシェリガールの母は中央ダートで3勝を挙げた
トーセンバスケットで、同馬の祖母は
メローフルーツだ。つまり、
オレンジピールや
ラピッドオレンジらと同じ牝系ということだ。
ブレイブスマッシュの母
トーセンスマッシュは中央1勝だが、その祖母は
スカーレットブルーで、
スカーレットインクの牝系になる。つまり、
ダイワメジャー、
ダイワスカーレット、
ヴァーミリアンらと同じ一族で、立派なボトムラインをしている。
今回のレースでメンバー中2位の上がり(33秒2)を計時しながら⑤着だった
ハレルヤボーイは、母が中央1勝の
トーセンミネルバだが、同馬の母は
グレースマリヤで、つまり
コスモフォーチュンや
コスモプラチナの妹にあたる。その牝系は
桜花賞馬ファイトガリバーと同じ。
JRAに登録されている
トーセンファントムの産駒(35頭)はすべて
エスティファームの生産で、
島川隆哉氏か
エスティファームの所有となっている。産駒の母を見ると、自身が物凄く活躍したとまでは言えないものの、
活躍馬が多く輩出されている牝系の馬であることが目立ち、そのことが
トーセンファントム産駒が走っていることにも関係しているように思う。
島川隆哉氏が
トーセンファントムに注ぐ愛情の証と言ったら、言い過ぎだろうか。
トーセンファントム自身は、前述した通り、3歳クラシックに出走できずに種牡馬入りとなったが、その祖母は
エリザベスローズで、
アグネスゴールドや
フサイチゼノン、
リミットレスビッドの近親にあたる。
ブレイブスマッシュは父も母も重賞勝ち馬ではないが、このようにして
重賞ウイナーが誕生するところが
競馬の、そして
血統の
醍醐味でもあるだろう。
ちなみに、
ブレイブスマッシュの
血統を系統別の色分けで記すと、次のようになる。
今回は牝系のことを多く記したが、
ブレイブスマッシュの母父は
トウカイテイオーで、祖母の父は
リアルシャダイだ。父
トーセンファントムは
ネオユニヴァースの産駒だし、
トニービンも内包しているから、
ブレイブスマッシュは
距離が延びても活躍するのではないだろうか。