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シンプルな前残り決着ながら、なかなか中身の濃い一戦
文/浅田知広、写真/川井博


過去に例を見ないほどの混戦ムードの中で迎えた今年の毎日王冠。まず休み明けとはいえ、イスラボニータほどの馬が7番人気というのもすごいが、その単勝オッズは9.2倍。過去の毎日王冠で10倍を切る……と調べれば、実は最近、2年前の7番人気レッドスパーダがで9.8倍だった。

ただ、その13年は1番人気ショウナンマイティ(⑥着)が2.6倍で、G1馬はエイシンフラッシュ(①着)1頭だけ。対して今年は1番人気のエイシンヒカリで4.9倍、そしてG1馬が4頭揃った豪華メンバーの混戦だ。

しかし、これだけG1馬がいながら、1~4番人気はすべてG1未勝利馬。8戦7勝のエイシンヒカリにはじまり、6戦4勝③着2回のアンビシャス。そしてここ1年連対を外していないヴァンセンヌ、さらには札幌記念でG2初制覇と力をつけてきたディサイファ。少々勝利から遠ざかったG1馬を上回る支持を集めるのも、納得できる実力馬ばかりである。さて、そんな新勢力が勢いで押し切るのか、それともG1馬が底力を見せるのか。見どころたっぷりの混戦だ。

ハナを切ったのはもちろんエイシンヒカリ。そして2番手には3番人気のヴァンセンヌ、マイル以下では末脚勝負だったが、この距離では前々で運ぶ形となった。山といる人気どころ(?)ではディサイファイスラボニータが好位に続き、残る3頭、ステファノススピルバーグは後方追走。アンビシャスはゲートで躓いて最後方に置かれてしまった。

序盤の600m通過は35秒9。さらにそこから12秒0が2ハロン続き、1000mは59秒9。さすがに開幕週のG2でこのペースは遅く、イスラボニータなど何頭かは掛かり加減。エイシンヒカリが、それだけ楽なペースに落とせたということだ。

エイシンヒカリは昨秋、直線をいっぱいに使って外ラチまで斜めに走り抜けたアイルランドTでは、200mから1000mまで11秒台前半4連発だった。しかし、同じ東京でも今年は前走のエプソムC(1000m59秒2)に続いてゆったりと運べたことになる。

こうなると、格がどうのという話は関係なし。いや、G1~G2を勝っていない分、56キロで済んだことがエイシンヒカリの背中を押す。残り600mから11秒0-11秒3の脚を繰り出した。

坂の途中では一瞬イスラボニータが捕まえにかかるかに見えたが、1馬身まで詰めた差が、坂を上がってから縮まらない。これを直後から伸びたディサイファが一気に交わしたものの、前を捕らえるには時すでに遅し。エイシンヒカリは坂上も11秒7でまとめ、またも鮮やかな逃げ切りで通算成績を9戦8勝とした。

もちろん次は秋の天皇賞と思われるが、今度は実績馬と同斤量の58キロ、さらに距離も200mの延長と、条件は厳しくなる。しかし、厳しくなってもそれを乗り越えられそうな魅力を感じる馬なのも確かだ。実は今回、もう少し人気を集めるタイプだと思っていたが、ここを勝ったことで本番では今回以上の人気になる、なんてこともあるのだろうか。

当然、今回は敗れた馬たちも黙ってはいないはず。最後に脚を見せたディサイファ、一度使われ変わり身がありそうなイスラボニータ。そして今回は遠征帰りだったスピルバーグ(⑩着)の巻き返しだってあるだろう。さらに別路線組も加え、今回にも増して熱い闘いが繰り広げられそうだ。

そしてもうひとつ、このレースは天皇賞と並び、マイルCSとも200m違いの前哨戦だ。今回はこのペースに苦労していたが、昨年の優勝馬ダノンシャークがまずまずの脚を見せて④着に食い込んだのは見逃せない。思わぬ先行策を取ったヴァンセンヌ(⑨着)ともども、有力候補になってくる。

展開としてはシンプルな前残りながら、今後のG1で何度も参考レースとして見ることになりそうな、なかなか中身の濃い一戦。映像にはあまり映らないところで、ちょろっと伸びていた馬が本番では穴になる。そんなケースもあり得るだけに、各馬の走りをしっかりと再確認しておきたい。