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“叩き上げ”が本領発揮、2つ目のビッグタイトルを手中に
文/吉田竜作(大阪スポーツ)、写真/森鷹史


みにくいアヒルの子に例えてしまうのは失礼かもしれない。しかし、ラブリーデイの足跡をたどると、どうしてもその姿をオーバーラップしたくなる。

2歳時は新馬野路菊Sと連勝。王道を歩むかに思われたが、次に陣営が取った一手は7ハロン戦の京王杯2歳S。ここで②着となってから朝日杯FSに臨んだものの、⑦着と大敗。春のクラシックへ駒を進めたものの振るわないまま。さらにその後は小倉記念金鯱賞と転戦。後に厩舎の看板を背負う馬のローテーションとは思えないものだった。

池江調教師「いいものはあるが、ここまで強くなるとは思っていなかった」宝塚記念を制した後にも口にしていたが、その言葉のとおり、当時はそこまで大きな期待をかけられていたわけではなかったのだろう。しかし、アヒルの子はこの苦難のスランプの中にあってじっくりと力と経験を蓄えていた。

天皇賞・秋の前に主戦の川田騎乗停止に。「クセがなくて乗りやすい馬」陣営操縦性の高さを認めていたが、やはり大一番での乗り替わりというのは簡単にいくものではない。ところが、このラブリーデイ川田を軸にしていたが、他にも11人の騎手がまたがっていたのだ。これが超一流の期待馬だったなら、川田の都合に合わせてローテーションを組んでいただろうし、鞍上も固定していたことだろう。

しかし、“そこまでもない”ことでバラエティーに富んだ条件を使われ、いろいろなペースを経験し、そして多くの鞍上を背中に乗せてきた。騎手にはそれぞれクセもあり、馬もその対応を求められるもの。これがこの急きょの乗り替わりにつながった…少なくとも今年の天皇賞・秋では活きたに違いない。

川田からのバトンを受け継いだ浜中もまた、その数多くの“代打”の一人を務めていた(3歳時の皐月賞)。その安心感と、当時との感触の違い――これは大舞台に臨む浜中にも大きな支えとなった。

逃げると思われていたエイシンヒカリのハナを叩いたのはクラレント。ペースはおそらく想定していたよりもかなり遅いものだったことだろう。「道中は少し行きたがっていた」浜中も制御に手を焼いたが、揺るぎない自信は浜中の頭脳を冷静さの中に留めた。

「手応え良く直線に向いて、少し早く先頭に立ちそうになったので、できるだけ追い出しを待った」。後方の足音に耳を澄まし、2番人気エイシンヒカリがスピードを失うのを確認してから馬首を力強く押した。すると、パワフルなフットワークが府中のターフを揺るがす。瞬く間に後方集団を突き放す。

後方集団からステファノスイスラボニータショウナンパンドラが末脚を伸ばしたが、態勢に影響を与えるには至らず。ラブリーデイが余裕を持って追撃をしのぐと、今年6つ目の重賞タイトル――自身にとって2つ目のビッグタイトルを手中に収めた。アヒルの子は押しも押されぬ日本を代表するサラブレッドへと完成した。

少し回り道をしながらも培った力――ありていに言うなら“叩き上げ”。こうした馬はもういかなる条件下に晒されても崩れることはないだろう。そして、この先続くG1シリーズでも主役としてのプレッシャーに打ち勝っていくに違いない。「本当に強い」という浜中の言葉にもそうした実感がこもっていた。

最後に2番人気に推され、私も本命にしていたエイシンヒカリにも触れておきたい。もちろん過剰人気ではあったと思うが、ハナを叩かれたことも含めて本来のパフォーマンスではなかった。坂口調教師が常々言っていたのは「周りに馬がいると力んでしまう。理想は後ろを離したハナ。ペースは関係なく大逃げすればいいんだよ」

常識的に見れば1000m通過が遅ければ遅いほど逃げ馬には有利と思われるが、この馬についてはこれが当てはまらない。「折り合っていた」と言うように武豊もうまくエスコートはしたが、それは必ずしもエイシンヒカリの力を100パーセント引き出すことには結実しなかったということだろう。

ことあるごとに「馬が違いますから」と否定してきたが、やはり稀代の天才騎手の脳裏には17年前の「あのアクシデント」のことも頭にあったのだろうか? もしそうだとすれば、今年もまたあの“呪縛”から逃れられなかったことになる。エイシンヒカリ武豊に合わせるのか、それとも武豊が呪縛を吹っ切るのか。このコンビがさらなる高みを目指すのならば、そのいずれかが求められることになりそうだ。