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武豊騎手にとって、朝日杯FS制覇に最大のチャンスがやってきた
文/編集部(T)、写真/稲葉訓也


1番人気シュウジの単勝オッズが1.7倍、2番人気エアスピネルが2.6倍。3番人気のナイトオブナイツが14.4倍だから、オッズの面では完全な一騎打ちムード。果たして、レースもこの2頭の強さが際立つ内容となった。

勝ったのはエアスピネル。抑えきれない感じでハナに立ったシュウジに対し、武豊騎手が騎乗したエアスピネルのレース序盤は中団から。勝負所で外を通って前を射程圏に入れると、先に抜け出したシュウジを並ぶ間もなく差し切った。

「そういえば……」と思い出したのが、ちょうど10年前、05年の秋華賞。この時もオッズの面では一騎打ちで、1.8倍の1番人気に推されたラインクラフトを、2.5倍で2番人気の馬が武豊騎手を背に差し切った(ちなみに3番人気は20.6倍のデアリングハート)。それがエアスピネルの母、エアメサイアだった。

エアメサイアたちが鎬を削った05年の牝馬クラシック世代は、繁殖としても活躍を見せている桜花賞NHKマイルCを制したラインクラフトこそ残念ながら夭折したが、オークスシーザリオエピファネイアを出したのをはじめ、オークス③着馬ディアデラノビアからディアデラマドレ阪神JF勝ち馬ショウナンパントルからショウナンアチーヴといった平地重賞勝ち馬が出てきている。

そんな中、エアメサイアエアワンピース(中央4勝)を出したのが目立つ程度で、なかなか重賞に届く産駒が出てこなかったが、ようやく大物候補の登場となった

レース内容もまた秀逸だった。掛かり気味に逃げたシュウジにしても、メンバー2位となる34秒8の上がりで伸びている。それをエアスピネルシュウジより0秒8速い34秒0の上がりで差し切り3馬身半差をつけたのだから、価値の高い勝利ということだろう。

一方、逃げたシュウジも、スタートから3~5ハロン目のラップタイムが12秒1-12秒8-12秒3と緩んだだけに、スピードの違いで行く形になったのは致し方のないところか。いかにも距離が短くなれば、という走りだっただけに、この敗戦でも評価は下げられないだろう。

これでデビュー2連勝を飾ったエアスピネルは、朝日杯FSを目指すとのこと。エアスピネル&エアメサイア母子の主戦を務めている武豊騎手にとって、朝日杯FS(前身の朝日杯3歳Sも含む)は唯一未勝利の中央平地G1となっている。

近年は2歳路線の細分化が進み、ホープフルSの賞金増額によって、中距離路線とマイル路線が分かれた。そのため、東京スポーツ杯2歳SホープフルSを目指す馬が多く出走する傾向が強まり、デイリー杯2歳S朝日杯FSの前哨戦という位置づけが明確になった。

ただ、デイリー杯2歳Sがマイル戦となった97年以降、このレースを勝って朝日杯FSを制した馬が1頭も出ていない。武豊騎手朝日杯FSを勝っていないのと同様に、これも競馬界の不思議のひとつだ。

それでも、近年の勝ち馬の中でも、これほどのスケールを感じさせた馬はなかなかいない。これまでさまざまな記録を塗り替えてきた武豊騎手だけに、これまでの傾向を突き崩す可能性は十分にありそうだ。

ところで、この世代の牡馬には「スピネル」という名前が付いたクラシック候補がもう1頭いて、それが萩Sを制したブラックスピネル。馬名の意味はそれぞれ違い(語源は同じかもしれないが)、エアスピネルが「冠名+タイに伝わる伝説の竜の形をした馬」、ブラックスピネルは「黒い尖晶石」とのこと。

一般的な単語ならともかく、こういったことは珍しい気がするので、「来年のクラシックで『スピネルはスピネルでも…』となったら、勝つのはどっちだろう?」と、余計なことを考えてしまった(笑)。

それはともかく、東京&京都開催が始まって以降、サトノダイヤモンド、ラルクなど、楽しみな逸材が新馬勝ちを収めている。こういった馬たちが今後順調に戦績を重ね、来年のクラシック戦線を大いに盛り上げてもらいたいものだ。