マリアライトが「牝馬の時代」の後継として名乗りを上げた
文/後藤正俊(ターフライター)、写真/川井博
京都競馬場の上空を包んでいたどんよりと厚い雲が、
エリザベス女王杯出走馬がパドックに姿を現したのと同時に切れ始め、暖かな秋の日差しが差し込んできた。場内では
ビートルズの曲が流れ、女王決定戦らしい
華やかな雰囲気に彩られた。
ジェンティルドンナの引退以来、空位となっていた
女王の座に就いたのは、このレースがG1初挑戦の6番人気
マリアライトだった。中団追走から4角で真っ先に外に持ち出し、早めに抜け出して押し切る横綱相撲。
蛯名騎手の右ステッキ連打と激しいアクションに必死に応えるど根性を見せた。
半兄に
ジャパンダートダービー勝ち馬
クリソライト(
父ゴールドアリュール)、半弟に今年の
菊花賞③着馬
リアファル(
父ゼンノロブロイ)がいる良血馬だが、兄弟と違ってデビュー時に420キロの小柄な牝馬。母
クリソプレーズは480キロ前後の馬格があったが、交配種牡馬の特徴を強く出すのが
クリソプレーズの特徴で、
マリアライトは
ディープインパクトが強く出過ぎていた。
種牡馬界を席巻する
ディープインパクトだが、牝馬産駒はカリカリしてしまい、カイ食いが悪く、なかなか馬体が仕上がってこないのが
唯一の欠点として挙げられている。
マリアライトはゆっくりと成長を待ち、3歳1月デビューで、3歳時7戦。4歳の今年もここが6戦目と、馬体作りを重視して大事に大事に使われてきた。だが夏を越して、ようやくふっくらとし、馬体に
芯が入ってきた。
前走の
オールカマー前は珍しく5ハロンから強めの追い切り。それでも12キロ増の440キロでレースに臨んだ。今回も直前こそ軽めだったが、1週前までにビッシリと仕上げて、
陣営は自信の仕上げを施して10キロ減の430キロ。軽めに仕上げて410キロ台だった昨年までとは、まるで別馬になっていた。
荒れたやや重馬場は、18頭の中で最少体重の同馬にとって、決してベストな条件ではなかったはずだ。早めに抜け出して粘り込むレースも、
ディープ産駒の小柄な牝馬には似合わない。
兄弟とはまったく違うタイプだと見るべきだ。
それでも、猛追する
ヌーヴォレコルト、
タッチングスピーチを押さえ込んだレースは決してフロックではなく、
極めて高い評価をすることができる。良馬場の切れ味勝負になったら同じ
ディープ牝馬では
ハープスター級の切れ味を見せ、今後は
ミッキークイーンと遜色がない能力を発揮できると見ている。
1番人気
ヌーヴォレコルトは昨年に続いて②着で、人気馬としての役割は果たした。昨年は先行して
ラキシスに差されたこと、大外18番枠もあり、
ラキシスをマークして中団後方からのレースになったと思われるが、なかなか
オークス以来のG1に手が届かないもどかしさに、
スター性はやや薄れてきている。
3歳
タッチングスピーチも善戦したが、G1を勝ち切るにはもう少し逞しさが欲しい。連覇と3年連続同一G1連対を目指した2番人気
ラキシスは、まるで負け癖がついてしまったかのように、まったく見せ場を作れなかった。
今後の大きな変わり身という点では、やはり④着
ルージュバックだろう。
オークス以来、5ヵ月半ぶりでいきなり古馬相手のG1。馬体はできているように見えたが、さすがにこのハンデは大きい。
戸崎騎手は引っ掛からないようにと、そっと出して行ったように見えた。そのため後方からの競馬となり、前半5ハロン60秒7、3番手以下は62秒以上のスローペースでは厳しかった。しかも直線を向いた時に前の馬がフラつき、一瞬ブレーキをかける
不利。それでも
ゴール前で④着まで押し上げた脚はさすがのものだった。
古牡馬では
ラブリーデイが一歩抜け出す成績を残しているが、
「王者」としての風格はまだ物足りない。
ゴールドシップはゲートの
不安が付きまとっている。3歳
ドゥラメンテは故障から完全復活できるか未知数な部分がある。
ウオッカ、
ダイワスカーレット、
ブエナビスタ、
ジェンティルドンナと続いてきた
「牝馬の時代」の後継として、
マリアライトと
ルージュバックが、
ミッキークイーンとともに
新たな時代を築いていく予感がする。