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マイル路線で絶対的王者として君臨してほしい
文/山本武志(スポーツ報知)、写真/森鷹史


核たる主役不在―。

マイル戦線について考えた時、随分と長い間、自然とこの結論にたどり着くようになっていたような気がする。過去のこのレースを振り返ってみても、連覇となれば06年と07年を勝ったダイワメジャー以来になる。

ただ、ダイワメジャー安田記念を含めたマイルG1・3勝以外に、皐月賞天皇賞・秋も制覇。マイル適性というよりは絶対能力が高かったという印象だ。個人的に生粋のマイラーと言われれば、タイキシャトルあたりまでさかのぼらないといけないかもしれない。

しかし、これが決して個人の主観でないことはこのレースの人気が物語っていた。少し抜けた単勝1番人気に推されたイスラボニータ皐月賞馬という肩書きこそ光るが、マイル戦となればハープスターの②着だった新潟2歳S以来、実に2年3ヵ月ぶり。今年は3戦走って、上位争いを繰り広げながらも未勝利だったというのに、1番人気に推されていたのである。

実際に過去10年のこのレース、天皇賞・秋からの転戦組が5勝を挙げていた。2年前に至っては、京都大賞典からの転戦で、初のマイル戦だったトーセンラーが鮮やかな差し切りを決めた。地力で適性を圧倒というシーンを何度も見てきたレース。だからこそ、こんな人気になったのだろう。

しかし、レースは波乱の幕開け。ゲートが開いた瞬間、イスラボニータは半馬身ほど出遅れたのだ。本来の好位から運ぶ形とはまったく違い、後方からの追走を余儀なくされた。内ラチ沿いに進路を取った直線ではさすがの伸び脚を見せたが、ゴール前で何とか③着に上がるのが精いっぱい。そのはるか前で馬群から抜け出していたのがモーリスだった。

実は恥ずかしながら、紙面上では無印にしていた。背中の疲れで復帰予定だった毎日王冠を回避し、G1初制覇となった安田記念以来、5ヵ月半ぶりのぶっつけ参戦。しかも、関東馬となってからは初の長距離輸送という点も気になっていた。その輸送では渋滞に巻き込まれ、通常より3時間以上、時間もかかっていた。色々と厳しい条件はあったはず。しかし、だ。そんな周囲の雑音をあざ笑うかのような「規格外」の強さを見せつけた。

道中は中団から楽々と追走。直線で鞍上のムーアが追い出しを開始すると、俊敏な反応で加速する。ダイナミックなアクションで抵抗するフィエロなどを置き去りし、涼しい顔でゴール板を駆け抜けた。1馬身1/4という着差以上の印象を与える圧勝。「直線はすごく切れる脚を使ったね。今は体にともなった筋肉がついているし、スタートをスッと出てくれたのも成長の証し」と2歳時(京王杯2歳S)以来の騎乗となるムーアは絶賛した。

記録ずくめの勝利だ。8枠での勝利は92年のダイタクヘリオス以来、23年ぶり。同一年の春秋マイルG1連覇は07年のダイワメジャー以来、8年ぶり。安田記念からの直行Vは史上初の快挙だった。さらに、上がり3ハロン33秒1は歴代の勝ち馬の中で最速の数字。その高いポテンシャルですべてを圧倒した。

レース後の検量室も、その強さに脱帽というムードが漂っていた。②着だったフィエロを管理する藤原英調教師、鞍上のM.デムーロはそろって「勝った馬が強かった」と悔しさというよりは、力を出し切ったといった納得の表情。④着だったサトノアラジンに騎乗していたルメール「相手が強い」と口にした。

様々な逆境をねじ伏せての完璧な勝利。ようやくマイル路線に待望の「核」たる主役が出現したような気がする。そう感じずにはいられないレースだった。「世界中でG1を勝たせてもらっているが、それらの中でもトップと言っていい」ムーア。今後は状態次第だが、招待を受けている香港マイル香港カップを視野に入れているという。しかし、ぜひともマイルの方に出走して、その道を極めてほしい。絶対的王者の存在こそが、何よりもマイル路線を盛り上げるはずだから。