今年は「魔の桜花賞ペース」を自らが作り出して逃げ切る!?
文/浅田知広、写真/川井博
もし
メジャーエンブレムが優勝すれば、2歳女王の
クイーンC制覇はヒシアマゾン以来21年ぶり。……という話を耳にして、まず思ったのは
「そもそも2歳女王はクイーンCに出て来ないだろう」と。調べてみれば、そのヒシアマゾンのほかは、05年のショウナンパントル(2番人気⑫着)しかいなかった。中には
エルフィンSを使ったウオッカのような例もあるものの、やはり
チューリップ賞での始動が王道だ(92年以降で14頭)。
もっとも、
クイーンCは
阪神JFからは中8週で、
本番・桜花賞までは中7週と、両G1のほぼ中間に位置する一戦でもある。いったん臨戦態勢を整えたら入厩しっぱなし、という時代とは違い、ちょくちょく短期放牧を挟む馬も多い今の時代、特にここで始動してもおかしいことはない。関東馬が盛り返しつつある今の流れが続くようなら、今後はこういう例も増えてきそうだ。
とにもかくにも今年の
クイーンCには、昨年の
阪神JFを快勝した
メジャーエンブレムが、
押しも押されもせぬ主役として登場した。ほかに
フェアリーS①②着の
ビービーバーレルや
ダイワドレッサーもいたものの、こちらはそれぞれ4、9番人気止まり。
メジャーエンブレムは単勝1.3倍と、
完全な1強ムードになっていた。
そして、レース自体もゲートが開いたその瞬間から、
メジャーエンブレムは主役の座を譲らなかった。まず1完歩目からして両隣の数頭に比べアタマからクビくらい早かった上に、すぐにスピードに乗り、ものの2~3秒でリードは1馬身。すぐに外から
コパノマリーンや
ビービーバーレルが追いかけてはみたものの、先手を譲るような構えはまったく見せず、そのまま前の位置取りは落ち着いたのだった。
ただ、そのあたりの駆け引きがあった分、2ハロン目は
10秒8。11秒を切ったのは04年以来で、その年に優勝したのはダイワエルシエーロ……というと先行押し切りのように思えるが、このレースのダイワエルシエーロはダッシュひと息で3角13番手。⑦着までを3角9番手以下の馬が独占した、
完全な前崩れ決着だった。
もちろん、そんなデータはレースが終わってから調べたもの。しかしリアルタイムの見た目上も、位置取りがあっさり決まったわりには結構飛ばしてるかという印象で、馬群はやや縦長。そして画面表示の600m通過タイムは
34秒4。少なくとも「楽逃げ」という形にならなかったのは確かだ。
しかし、
メジャーエンブレムは前走の
G1・阪神JFですら、②着以下に差し馬勢を従えて快勝した実力馬である。このメンバーで少々ペースが速かろうが、3角過ぎから早めに後続が来ようが我が道を進むのみ、といった堂々としたレースぶり。まったく楽な手応えのまま直線に向き、残り400mあたりで軽く気合いをつければ差は開く一方だ。
終わってみれば、②着
フロンテアクイーンに5馬身差。そして勝ち時計は、先週の
東京新聞杯を1秒6も上回る
1分32秒5。やたら時計が速い日だったとはいえ、もうそのまま
NHKマイルCを勝ちそうな……いや、
桜花賞最有力候補ならそれも当然だが、ともかく
2歳女王の力を改めて見せつけた一戦となった。
こうなると
「なんでこの馬、アルテミスSで負けたんだ」と。今回は3ハロン目以降がすべて
11秒台だったが、当時は4~5ハロン目が
12秒4-12秒6。その分、ラスト2ハロンが
11秒1-11秒2と極めて速くなり、デンコウアンジュの切れ味に屈した形だった。また、スタート直後の中団から、向正面で掛かって先行してしまったのも結果に多少なりとも影響を及ぼしただろう。
今回はどんな展開でも勝てそうなレースだったが、このあたりを踏まえると、多少ペースが速くても押し切るこの形がおそらくベストと思われる。
さて、次は
本番・桜花賞。この強い競馬を見せられた他の
陣営が
「あの馬と競ったら潰される」と控えまくったらどうなるか、それでもペースを落とさず一気に行ってしまうのか。昨年のレッツゴードンキは1000m62秒5という超スローからの逃げ切りだったが、もしかしたら今年は
「魔の桜花賞ペース」(古い!)を
メジャーエンブレム自らが作り出し、それでも逃げ切るシーンが見られるのかもしれない。