“理想の師弟関係”が迎えたハッピーエンド
文/編集部(T)、写真/稲葉訓也
前日までの雨もどこへやら、
稍重でスタートしたこの日の小倉の芝は、あれよあれよという間に良化し、14時過ぎには
良馬場となった。
ただ、馬場はそれなりに
水を含んだ状態だったはず。今回記録された
勝ち時計の1分46秒7こそ平年並みだが、勝った
アルバートドックをはじめ、上位を占めたのはいずれも
序盤で後方に控えていた馬。
前半600m通過が47秒5のペースで逃げた
スマートオリオンが⑯着にシンガリ負け、2番手にいた
テイエムタイホーが⑮着だから、典型的な
前崩れの展開となった。
同じ良馬場でも、12年の
小倉大賞典は
勝ち時計が1分46秒3、前半600m通過が47秒4で、さほど変わらない時計だが、この時は逃げた
エーシンジーラインが押し切っている。馬場の差はそれだけ大きかったのだろう。
とはいえ、今回のメンバーは馬場状態があまり関係ない感じで、上位人気に推された6頭(
マイネルフロスト、アルバートドック、ベルーフ、ハピネスダンサー、ネオリアリズム、ダコール)のうち、
ベルーフを除く5頭は良馬場でも道悪でも連対実績があった馬。
ベルーフにしても道悪が未経験なだけで、道悪=マイナスとは言い切れない。
ハンデ戦は地力の差をハンデで埋めるわけだから、
仕上がりや展開、馬場などが結果を左右しやすい。その中で馬場ではないとなると、仕上がり具合が結果を左右したのだろうか。
馬体重に目を向けると、上位人気馬の中で大きく増減していたのが
アルバートドック(8kg減の482kg)、
ダコール(14kg減の480kg)、
ネオリアリズム(20kg増の520kg)だった。
結果的に、この3頭が馬券圏内を占める形となった。特に
アルバートドック、ダコールは前走が10kg以上の大幅馬体増だったので、ここに向けてきっちり作ってきたことが想像できる。
勝った
アルバートドックは、2月いっぱいで引退を控える
松田博師の管理馬。同師は来週まで現役だが、重賞はこれが最後とのこと。その鞍上・
川田騎手も、レース後に同騎手自身が
「(松田博師の)指示通り」と語ったように、最内にピッタリとつけて後方待機。そのまま内ラチ沿いをスルスルと進出し、そのまま直線も最内から突き抜けた。
的確な指示をする調教師もさすがなら、それをきっちりと勝利に結びつける騎手もさすが。この勝利は、
“理想の師弟関係”が呼び込んだものといえるのかもしれない。
同郷(佐賀県出身)であることでも知られる、
松田博師と
川田騎手。このコンビでの重賞勝ちといえば、
ハープスターで
桜花賞をはじめ4勝、
ラストインパクトで3勝などがあり、この勝利で12勝目となった。
松田博師の平地重賞勝ちがここまで67勝だから、かなりの割合を
このコンビで勝ってきたことになる。
ハープスターが
阪神JFで敗れた時に、馬群に突っ込んだ
川田騎手の騎乗について師が苦言を呈するなど、話題を振りまくこともあったが、その後も変わらず騎乗を任せてきたところを見ると、強い信頼関係は変わらずにあったのだろう。
もし
阪神JFで、
川田騎手が
ハープスターを
松田博師の指示通りに導いたとしたら……と考えるのは、さすがに野暮だろうか(笑)。
自分がお目にかかったのは一度しかないが、朴訥とした語り口で馬と人に対する愛情を感じさせた
松田博師。そんな師弟関係が来週で終わるのを寂しく思うのと同時に、その薫陶を受けた今後の
川田騎手にもますます期待したい。