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抜群のダッシュで繰り出した、圧巻のタイレコード
文/編集部(T)、写真/森鷹史


スポーツなどでよく使われる“スタートダッシュ”という言葉がある。これは和製英語とのことで、最近は英語でも使われる“ロケットスタート”という表現の方を聞くことも増えたが、古い人間としては今でも前者を使ってしまうのです(笑)。

それはともかく、野球やサッカーなど長丁場を戦うスポーツでの“スタートダッシュ”は、「開幕○連勝でスタートダッシュを決めた」といった感じで、ポジティブな意味で使われる。当然ながら、そういったスポーツでは勝ち星を積み重ねることがマイナスにならないからだ。

一方、競馬の場合は“スタートダッシュ”がマイナスになる場合がある。ご存じのように、ハナに立ってもペースや馬場の影響で、いわゆる「前と後ろがそっくり入れ替わる」ケースも多いからだ。

ところが、今回のミッキーアイルが決めたスタートは、紛れもなくポジティブな意味での“スタートダッシュ”だったのだろう。

ミッキーアイルは主戦の浜中騎手が負傷休養中で、テン乗りの松山騎手が鞍上となったが、抜群のスタートでハナへ。ハナを争う可能性もあったレッツゴードンキはスタートで半馬身ほど遅れたこともあってか、岩田騎手が手綱を抑えて2番手に控えた

結果的に、ここで勝負あったのかもしれない。ミッキーアイルは快調に逃げ、直線で追いすがるレッツゴードンキが坂を上がって失速すると、代わって伸びてきたオメガヴェンデッタなどの追撃を寄せ付けなかった。

レッツゴードンキの立場で見ると、逃げ切った桜花賞のことを考えると行き切る選択肢もあったかもしれない。それにもかかわらずミッキーアイルの発馬があまりに抜群だったために行くことができなかったとしたら、まさに「勝負を決めた“スタートダッシュ”だったとも言えるのではないか。

それにしても、ミッキーアイルの勝ちっぷりは抜群だった。ペースが遅かったかというとそんなこともなく、前半600mの通過タイム33秒8は過去10年で3番目に速く、良馬場でコパノリチャードが逃げ切った一昨年の阪急杯と同じ。それでいて走破タイムはコパノリチャード(1分20秒7)より0秒8速い1分19秒9だ。

この1分19秒9というタイム、阪神の1400mではあまり見ないなあ……と思ったら、それもそのはず、サクラバクシンオー94年スワンS(この年は阪神開催でした)で記録したレコードタイムに並ぶ、タイレコードだったのだ。

サクラバクシンオーが勝った当時は、このタイムはもちろん日本レコード。個人的にも「ついに1分19秒台が出たかあ」と驚いたことを覚えている。それからタイレコードはあっても、破られてはいないのだから、サクラバクシンオーがどれだけ速かったのか、ということでもあるし、このタイムの凄さも分かるのではないだろうか

ちなみに、阪神芝1400mで斤量57kg以上を背負い、1分19秒9を記録したのはわずか3回で、今回と前述のサクラバクシンオーと、マジンプロスパー(11年6月4日・1000万平場戦)のみ。ミッキーアイルも含め、いずれもG1馬だ。このコースでこれだけ速いタイムを記録するというのは、それだけの実力がなければできないのだろう

ミッキーアイルは昨年の阪急杯が不良馬場で②着、高松宮記念は稍重で③着に敗れているが、今回見せつけたスピード能力の高さを見ると、これは道悪の影響も大きかったはず。この勝ちっぷりでマークはされるかもしれないが、今年も参戦すると言われているエアロヴェロシティにも引けはとらなさそう。あとは晴れを祈るのみ……かも?