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ビッグアーサーが大きな一歩を踏み出した
文/後藤正俊(ターフライター)、写真/森鷹史


直前になって昨年の覇者、香港のエアロヴェロシティが出走回避シルクロードSを制したダンスディレクターも出走を取りやめたことで、混戦に拍車が掛かった感があった今年の高松宮記念だったが、終わってみれば単勝1番人気ビッグアーサーが優勝、3/4馬身差で2番人気ミッキーアイルが②着、3番人気アルビアーノが③着と、人気がそのまま結果に表れた。

中京開催最終週に位置する高松宮記念は例年、馬場の悪化がスピード馬を苦しませていた。電撃の6ハロンらしいスピード決着を望んだJRAは今年、最終週だけ馬場の荒れていないBコース使用という方策を取り入れた。

ところが、今年の名古屋は雨が少なく、JRA発表によると3月20日(日)以降、中京の雨量は0mm続き。それにBコース使用が重なったことで、想像を上回る高速馬場が出来上がっていた。前日26日(土)の岡崎特別(1000万条件)ではシゲルチャグチャグがコースレコードを0秒6も短縮する1分7秒4をマーク。高松宮記念日本レコード更新すら予感される状況の中でのレースとなった。

直線が長い中京でも前が止まらない展開が予想されたため、テンから激しい先行争い。ローレルベローチェが前半3ハロンを32秒7で逃げ、大外ハクサンムーンもこれを追撃した。スタート直後は逃げも想定していたミッキーアイルは控えて3番手で進んだが、このブレーキと4角で外に振られた不利が、最後の直線での粘りを欠く結果となった感じ。

ビッグアーサーはそのミッキーアイルを常にマークしながら4番手の絶好の位置取り。先に抜け出したミッキーアイルをゴール100m手前で楽に交わし、1分6秒7コースレコードで圧勝。日本レコードには0秒2及ばなかったものの、サクラバクシンオー産駒らしいスピード能力を遺憾なく発揮し、重賞初勝利がG1タイトルとなった。

また、昨年10月の落馬から復帰した福永祐一騎手は、テン乗りながら復帰後初、3年ぶりの国内G1勝利。藤岡健一調教師もG1初勝利だった。

前夜のドバイ、日本馬はUAEダービーでラニ、ユウチェンジ、オンザロックスが①③⑤着。ドバイターフでリアルスティールが①着。ドバイシーマクラシックでドゥラメンテ、ラストインパクト、ワンアンドオンリーが②③⑤着と素晴らしい活躍を見せて、大いに盛り上がりを見せた。今秋からは海外レースの馬券発売もスタートするだけに、日本馬の海外遠征はいままで以上にファンを盛り上げる存在になりつつある。

だが、短距離界はロードカナロアの引退以降、世界に通用する馬が登場していない。アルクオーツスプリントのベルカントも⑫着と大敗していた。それだけに11戦7勝とまだ底をまったく見せていないビッグアーサーには、海外遠征へ向けての期待が大きく高まってきた。

馬産地にとってもビッグアーサーのG1勝利は大きな意味を持つ。父サクラバクシンオーは産駒のJRA勝利数が史上5頭目の通算1400勝を達成したばかりだが、2011年4月に死亡しており、現4歳世代35頭がラストクロップとなっている。後継種牡馬としてショウナンカンプ、グランプリボスがまずまずの人気を集めているが、その種牡馬実績と比較すると駒不足の印象はぬぐえない状況にあった。

サクラバクシンオーは単にスプリント、マイルの優秀な種牡馬というだけではない。その父サクラユタカオーは、1970年代から馬産地を席巻したプリンスリーギフト系の中でも、大エースであり「お助けボーイ」と崇められたテスコボーイの血をただ1頭守っている父系。その母系にはやはり日高の大種牡馬ネヴァービートと、名牝スターロッチの血が入っている。

サクラハゴロモはすでに父系は途絶えている11年連続リーディングサイアーノーザンテースト産駒日本の馬産地の血の結晶でもある。その産駒ビッグアーサーはショウナンカンプと同様に、サンデーサイレンスの血が入っていない。サンデーサイレンス系牝馬の配合相手としてうってつけの存在で、将来の種牡馬入りを多くの生産者が望んでいる。

ビッグアーサー高松宮記念制覇は、海外短距離戦へ向け、そしてサンデーサイレンス系が席巻する生産界の変革へ向けて、大きな一歩になったことは間違いない。