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3頭の戦いをもっともっと観たい
文/安福良直、写真/森鷹史


「競馬って、難しいなあ」

メジャーエンブレムを信頼していた人は、みんなそう叫びたかったに違いない。ここまで5戦4勝圧倒的なスピードを武器に、先行押し切りの横綱相撲を続けてきた。歴代の桜花賞馬たちと比べても、劣るところはまったくないと思われていたのだが…。これが一発勝負の競馬の難しさだろうか。

も、昨年の桜花賞が超スローペースの凡戦だったこともあり、メジャーエンブレムには「これが桜花賞だ!」という堂々たるレースを見せてほしかった。ただ、もし負けるとすれば、出遅れたときかなあ、とも思っていた。

不安が的中した、というほどでもないが、メジャーエンブレムのスタートはあまりいいものではなかった。それでも、隣枠のビービーバーレルらもさほど速くはなかったので、先手を取ろうと思えば取れたはず。

しかし、ルメール騎手は無理をしなかった。このあたり、名手らしからぬ消極策とも言える(結果的にそうなってしまった)が、馬が強くてどんな競馬でもできるがゆえに、「落ち着いて安全に行こう」という気持ちになったのかもしれない。

これが「逃げなければ勝てない」という馬だったら、無理してでもハナに行き、ハイペースになってもメジャーエンブレムのスピードが活きる競馬になっていただろう。大本命馬に乗るプレッシャーには、ルメール騎手でも勝てないことがあるほど重いものなのだろう。ただ見ているだけの側は「ハナに行ってしまえば良かったのに」と気軽に言えてしまうんだけど。

その後は「大本命馬包囲網」に引っかかって苦戦を強いられたメジャーエンブレム。4コーナーまで馬群に包まれ、直線で抜け出そうとするところを、隣にいた戸崎騎手ラベンダーヴァレイらにブロックされてしまう。このあたりの攻防は、一流のプロが見せる勝負の厳しさ。これらを跳ね返すところまでのメジャーエンブレムはさすがだったが、そこで力尽きてしまった。

一方、もがくメジャーエンブレムを見て、願ってもない展開と喜んだのはシンハライトだったはず。こちらの方が出遅れの危険性が高かったのが、上手くスタートを切って、道中はすぐ前にメジャーエンブレムを見る形。もっと離れた位置から追いかけなければならないと思っていただろうから、池添騎手「これはもらった!」という心境だっただろう。直線も、メジャーエンブレムラベンダーヴァレイらと戦いを横目で見ながら、目標としていたメジャーエンブレムをあっさり交わすことができた。

しかし、そのシンハライトですら標的にされるのだから競馬は難しい。後方待機、ひたすら自らの末脚を光らせることに賭けていたジュエラーの餌食になってしまった。大外から上がり3ハロン33秒0の豪脚一閃。ゴールでは数センチの差だと思うが、シンハライトを交わしていた。思えば最近の桜花賞は、メジャーエンブレムのような先行押し切り型ではなく、ジュエラーのような追い込み型の方が多く勝っている。結果的には、最近のトレンドに乗った桜花賞だった、ということだろう。

ジュエラーにとっては展開が向いたことも確かにあったが、この末脚はG1を獲るのにふさわしいものであることは間違いない。デビュー2戦目からまたがったM.デムーロ騎手も、惜敗を続けながらも末脚を磨くことに賭けてきたのが実った。

M.デムーロ騎手は、父ヴィクトワールピサとはドバイワールドCでコンビを組んで勝ったし、その産駒の初G1を飾ることができたのだから最高の喜び。おっと、さらにその父のネオユニヴァースでの二冠制覇もあるから、親子三代のG1勝ちをともにしているのか。これは武豊騎手を超えた!?

しかし、負けたとはいえシンハライトの最後の伸びも素晴らしかった。正直言って、もっとあっさりとジュエラーに交わされるかなと思っていたが、最後の最後まで抵抗したのは非凡な能力の証拠。メジャーエンブレムジュエラーもG1馬になった今、次は私の番と思っていいはずだ。

そして、まさに悪夢の展開となってしまったメジャーエンブレムだが、弱くて負けたわけではないので、次のG1では巻き返すはず。NHKマイルCに行くのかオークスに行くのかはわからないが、悔しさを晴らすなら、今日負けた相手にリベンジすべきかと思う。というか、この3頭の戦いをもっともっと観たい。今日が「新・牝馬三強物語」のスタートになれば、今年の競馬は絶対に面白くなる。