未知の距離でも、チェッキーノは心が折れるどころか伸び続けた
文/編集部(M)、写真/森鷹史
いつも、レース前に
推定の決着時計を書き込んでおくのだが、今回は
2分0秒9(良)としておいた。馬場状態が良好なのは誰の目にも明らかで、先行型もそこそこ揃っていたけれど、結局、平均ペースかそれよりも緩い流れになって、
例年通りの時計になるんじゃないかと思っていたのだ。
ところが、
クィーンズベストが予想以上のペースで逃げて、
1000m通過は59秒7だった。01年に
フローラSという名称になってからは前半の1000m通過が60秒を切ったことがなかったから、これは速い。
4歳牝馬特別というレース名だった頃を含めても、90年以降での1000m通過最速タイムは
60秒0(90年)で、60秒を切った年は
89年(59秒6)まで遡る。当然のことながら、89年も90年も先行馬は直線に入って勢いを失っていて、今年も
差し馬が台頭する結果になった。優勝タイムは
1分59秒7(良)というレースレコードだった。
連対圏に入った
チェッキーノと
パールコードは、どちらも3戦して④着以下のない馬だったが、
経験してきた距離やレースぶりは異なっていた。優勝した
チェッキーノは過去3戦が
1400~1600mで、いずれもメンバー中最速の上がりを計時していた。一方の
パールコードは過去3戦が
芝1800~2000mで、上がりはメンバー中2~3位だった。
マイル以下で切れ味を武器にしていたタイプ(チェッキーノ)と
中距離で持続力に長けていたタイプ(パールコード)で、このような2頭がワンツーをするのだから、競馬は
一筋縄ではいかない……。
都合良く解釈すれば、
チェッキーノはマイル以下の距離を使われてきていたから、
速い流れに対応する力を備えていたのだろう。
パールコードはレース上がりが36秒1とかかり、
決め手勝負にならなかったことがプラスに働いたのではないか。
個人的には、
パールコードに「◎」を付けていたので、同馬が好走するパターンを読み切っていた、と胸を張って言いたいところだが、その
3馬身先に
チェッキーノがいたわけで、同馬の走りには、ただただ
脱帽するしかない。
パールコードは過去3戦の1000m通過が62秒4~64秒1で、
チェッキーノは59秒0~59秒9だった。つまり、
チェッキーノの気持ちになってみれば、前半1000mはこれまでと同じようなペースで、
慣れたものだったろう。しかし、そこから600mを走っても
ゴールにならず、それどころか
坂を登りながら
さらに脚を伸ばせと言われたわけだ。
私がその立場なら当然のように
心が折れていたと思うが、これが
良血馬の成せる業か、はたまた名門・
藤沢和厩舎の底力か、
ルメール騎手のマジックなのか。
チェッキーノは脚が上がるどころか加速し続けて、最後は3馬身の差を付けてみせた。
チェッキーノは今回も
メンバー中最速の上がりを使ったので、これで4戦連続で最速の上がりを計時したことになる。加えて言えば、過去3戦の上がりは
34秒8~35秒2で、今回は
34秒6だったから、
距離が延びてさらに上がりタイムが速くなったということだ。レース後に
ルメール騎手が
「スタミナはあると思う」と話していたが、まさしくそうだったのだろう。
過去のこのレースで、前半1000m通過が速くなった年として89年と90年を紹介したが、その2年での勝ち馬は次走の
オークスで
④着(89年
ファンドリポポ)と
⑥着(90年
キョウエイタップ)に敗れている。
レースの流れがスピードに寄っていたり、速い流れを差し切ると疲れが抜け切らない面があるんじゃないか、と推察したが、
いや、待てよ、と今回は考え直すことにした。その理由はふたつ。
まずひとつは、89年も90年も
4歳牝馬特別から
オークスまでが
中2週で、現在(
中3週)とは異なることだ。1週間違うことで、どれだけの疲労回復につながるかは分からないけれど、激闘を癒すのに
プラスの効果はあるだろう。
そしてもうひとつは、
チェッキーノの相手となる
桜花賞上位馬も、主に
マイル以下で切れ味を活かす競馬をしてきている点だ。
ジュエラーはデビュー勝ちが
芝1800mだが、近3走は
マイル戦だし、
シンハライトと
アットザシーサイドは1600mを超える距離の経験がない。
チェッキーノと似たタイプ、いや、今回、
2000m戦で勝利したことを加味すれば、
距離の経験値では
チェッキーノに分があるとも言えるのではないか。
オークスは、出走馬すべてが初距離というケースが多く、今年も
潜在能力を問われることになるのだろう。
ジュエラー、
シンハライト、
アットザシーサイドは京都&阪神しか経験のない関西馬で、
オークスでは
初の関東遠征になる。
フローラS組は
桜花賞組に比べて出走間隔が詰まる反面、
東京競馬場を経験している利が見込めるだろう。そこで逆転劇が生まれるだろうか。