大きな決断が奏功、最高の結果をつかみ取った
文/鈴木正(スポーツニッポン)、写真/川井博
ルメール騎手の喜び方がいつもより大きいように見えた。逃げ切った直後、ガッツポーズをつくった。ウイニングランではスタンドに向けて何度もアピールした。ヒーローインタビューではこう語った。
「桜花賞ではご迷惑をおかけした。きょうはリベンジだった」。
名馬とコンビを組み、何度も栄光を味わってきた
ルメール騎手だが、
今回の勝利はひとしおだったのではないか。ライバルとの戦いはもちろんだが、自分との戦いでもあったからだ。
逃げ切った、そのラップを検証する。2F目が
10秒7で、その後は
11秒台を刻み続けた。勝負どころの残り3Fで
11秒3にグッと上げ、最後も
11秒5、
12秒3。息を入れる局面が一切なく、最後まで厳しかった。これは
ルメール騎手の思い通りの流れだった。
「速いペースを維持しようと思っていた。完璧なレースだった」。レース後、胸を張って答えた。
この形になれば、やはり強い
メジャーエンブレム。ただ、そう思えるのは実際に勝った後だからだ。ハイペースで逃げて、もし失速したら…と思うと、やはり怖さはある。もし連敗したら、その先、どのように戦えばいいのか、方向性が見えなくなる。
ルメール騎手も悩んだはずだ。いろいろ思いを巡らし、その末に、やはり逃げよう、
メジャーエンブレムを信じ切って速いラップを刻もうと決意したはずだ。
リベンジを期す
陣営に幸運も味方した。大きかったのは枠順だ。
2枠4番、これは理想的だ。そしてハナを主張する可能性があった
シゲルノコギリザメが
7枠13番に入った。
松岡騎手は、チャンスがあれば人気馬に一泡吹かせてやろうという姿勢を最初から示しており、枠が逆になっていたら、どうなっていたか分からなかった。
馬の出来も
桜花賞より良かったように思う。追い切りで素晴らしい動きを見せ、当日は6キロ減。トモの大きさは相変わらずで、返し馬の時、後肢に躍動感が戻ったのを見て、好走を確信した。
直線では絶好の手応えから先団の馬たちをジリジリと引き離した。最後に迫ったのは後方から決め手に賭けた
ロードクエストと
レインボーライン。だが、しっかりと退けて
3歳マイラーの頂点に立った。
最初から最後まで隙がなく、完璧な勝ちっぷりだった。
検量室前に戻り、
ルメール騎手は
田村師と抱き合った。師も今回、悩み抜いたことだろう。まず
大きな決断は
オークスでなく
NHKマイルCに出走したことだ。もちろん、出走レースは
馬主、
牧場サイドと相談の上で決まるが、最終的に責任を負うのは調教師だ。考えに考え抜いたことは容易に想像できる。
ルメール騎手とともに作戦も練ったはず。
「速いラップで逃げる」という方針にも当然、合意していただろう。
私は個人的に、主役たちが悩みながらリスクを取って決断し、最高の結果をつかむという物語が大好きだ。戦記物の小説や、ビジネスの成功者の一代記は最高だ。そんなストーリーを競馬からも味わうことができる。これこそが
競馬ファンだけに許された醍醐味だと思う。
②着は
ロードクエストだった。
池添騎手はこれで
桜花賞(シンハライト)、
天皇賞(カレンミロティック)に続き、この春3度目のG1②着。どれも完璧に乗っての
銀メダルで、運がなかったという他ない。
ロードクエストも後方2番手から直線に賭ける形。しっかりと持ち味を引き出した。大一番で本当に頼りになる騎手。頂点には手が届いていないが、同騎手の評価はますます高まることだろう。
③着
レインボーラインもしかり。
福永騎手はしっかりとこの馬の良さを把握し、持てる末脚をぎりぎりまで引き出した。さすがの仕事ぶりだった。
お立ち台に上がり、一生懸命に日本語でインタビューに答える
ルメール騎手を見て、胸が熱くなった。「外国人騎手にばかりいい馬がいく」、「あんなにいい馬にばかり乗っていたら、結果が出て当然」という声を聞くが、そんなに簡単ではない。少し負けが込めば、あっという間に評価が落ちるのも、競馬社会の特徴だ。
その中で
ルメール騎手もまた、懸命に努力を積み、期待に応えようとしている。自分は競馬を通じてドラマが見たい。勝利を渇望する
関係者が全力を尽くす様子を見たい。それを見せてくれるのであれば、日本人も外国人も関係ないのではないか。心からそう思う。