サトノアラジンは安田記念の予想のカギを握る存在に!?
文/浅田知広、写真/川井博
安田記念へ向けたステップレース、
京王杯スプリングC……ではあるのだが。86年から05年までの20年間、
安田記念で
前走・京王杯スプリングC出走馬は
[12.8.8.110]。連対馬40頭中20頭と、まず間違いなく
「最重要」ステップレースだった。しかし、これが06年以降の10年間になると、
[1.3.1.39]で連対馬20頭中4頭止まり。明らかに傾向が変わってきている。
これが、昨年の
サクラゴスペルのように
「1400m戦でスプリンターっぽい馬が勝っているから」とかいう理由なら、少なくとも
京王杯スプリングCの馬券は当てやすい。しかし、マイル実績を持たずに勝ったのは、ほかに10年の
サンクスノートくらいなもの。このレースを勝った当時のサダムパテックやダイワマッジョーレなど、むしろマイル以上のほうが向きそうな馬が勝っていながら、どうにも
安田記念には繋がりづらい一戦だ。
そして、今年のメンバーでスプリンターっぽい馬といえば、なにより1番人気の
エイシンスパルタン。3連勝で駒を進めてきたものの、いずれも1200~1400m戦で、マイルは未勝利勝ちのみだ。さらに、2番人気に推された
ロサギガンティアも、1800mの
スプリングS勝ちがあるとはいえ、このところ1400mで2連勝中である。
この1、2番人気を①着候補から外せるとなれば、好配当にありつける。続く3番人気
サトノアラジンは距離短縮で初の1400m戦、そして4番人気の
ダッシングブレイズも昨秋1600mで3連勝と、このあたりが狙いどころになりそうだ。
そんな
色気を持ちつつあれこれ馬券を購入し、さてレース。先手を奪った
サクラゴスペルは、昨年の勝ち馬なのに人気薄。マイル実績を気にしなければ手を出したくなる存在だ。これに続いて、1番人気の
エイシンスパルタン。さらに、少々ごちゃついた好位の一角に
ロサギガンティア。このあたりが残ってしまえば
大ハズレだ。一方、3、4番人気の
サトノアラジン、
ダッシングブレイズは中団~後方待機。ペースが上がってくれればしめしめ、という展開である。
とかなんとか思っている間に、短距離1400m戦だけあって、あっという間に直線へ。2番手の
エイシンスパルタンは徐々に後退していったものの、どうも
サクラゴスペルの脚色は衰える雰囲気がないではないか。そして、これに内から迫ったのは、昨年③着の
オメガヴェンデッタ。基本的に
前年の好走馬は買うスタンスだけに、こんな組み合わせで決着したら
痛恨どころの話ではない。他馬もバテてこそいないものの脚色はさほど変わらず、いかにも
「上がりの速い競馬で前残り」っぽいレースの見た目だ。
ところが、画面が先行勢のアップから後続まで映るように引いていった瞬間、大外から飛んできた馬が1頭、
サトノアラジンだった。3コーナーでは後方の内寄りいたようだったが、後で見返せば3~4コーナー中間から外に持ち出し、直線では比較的スムーズに大外へ。そこから、各馬似たような脚色になっていた先行勢を、まとめて一気に交わし去ったのだ。前ばかりに注目していた分もあって、まさにすっ飛んで来たというような、鮮やかな差し切り勝ちだ。
後から数字をみれば、逃げた
サクラゴスペルの上がり3ハロンは34秒1。短距離戦で先行した馬がこの上がりなら、他馬はそうそう簡単には交わせない。先行勢がみんな似たような脚に見えたのも当然だろう。
しかし、勝った
サトノアラジンと、その後ろから伸びてきた②着
サンライズメジャーの上がりは、なんと
32秒4だった。新潟、あるいは京都ならまだしも、東京で連対馬がこんな脚を使った例はほとんど記憶にない。調べてみれば、過去10年の東京で、上がり32秒5以下だった連対馬は5頭だけ。直感的に
「なんか俺の知ってる競馬と違う」と思ったのは、おかしなことでもなかったのだ。
そんな貴重な脚を見せてくれた
サトノアラジン。今回は1400m初参戦で、昨年は主にマイル戦を使われ、
富士S②着、
マイルCS④着。もともとの実績からしても、これで
安田記念の有力馬に……、と言いたいところだが。どうも、マイル重賞であとひと息足りなかった馬が、1400mでこんな脚を使うと、後々
「実はスプリンターだった」なんてことになりそうな気も少々したり、しなかったり。
もっとも、
マイルCSでは勝ったモーリスとは0秒2差あったものの、②着とは同タイム。モーリスが
安田記念に出てきたとしても遠征帰りの一戦になるだけに、半年経って逆転の目もあるだろう。また、距離云々とは関係なく、単に
5歳を迎えた本格化という可能性だってある。いずれにしても、
安田記念でその末脚が再び炸裂するのかどうか、
ひとつ予想のカギを握る存在になりそうだ。
ちなみに、②着にもマイラーっぽい
サンライズメジャーが入って、当初の予想通り「スプリンターっぽい馬」は勝たなかった、のだが。いや、勝ち馬の条件を探っていたはずが、いざ馬券を買う段階になると
「えいやっ」と人気馬を②③着候補からも外してしまうこと、よくあるんだよなあ、という、③着
ロサギガンティアであった。