1番人気のチャンスを掴み、またひとつステージを上がった
文/編集部(M)、写真/森鷹史
1ヶ月前の
アンタレスSを走った馬が7頭出走し、同レースの再戦ムードとなったが、レースは
思わぬ展開になった。
アンタレスSでハナを奪った
ショウナンアポロンの行き脚が付かず、
クリソライトは前走で押しても前に行けなかったからか、今回は行く気すら見せなかった。
前走と同じ外枠で、前走と同じ斤量58kgを背負って好スタートを決めた
アスカノロマンは、
「誰も行かないなら、行かせていただきます」とばかりにハナに立った。逃げを打ったのは、実に2年前の
鳳雛S(②着)以来。しかし、
影をも踏ませぬとはこのことで、4コーナーから後続との差を拡げると、最後は
5馬身の差を付けて悠々とゴールした。
自らペースを作って他馬に大きな差を付けるという、いかにも
1番人気らしい
横綱相撲に見えたが、鞍上の
太宰騎手はレース後、
「人も馬も1番人気に慣れていないもので(笑)、もう少し余裕を持っても良かったですね」と話した。直線でしっかり追ったことで、
5馬身の差が付いたようだ。
調べてみると、
アスカノロマンは確かに
1番人気に推されることが珍しく、3歳2月の500万戦以来で、今回は実に
16戦ぶりの1番人気だった。1番人気は通算で
3度目で、過去の2戦は10~11頭立てで、②着と④着に敗れていた。ちなみに、その2戦の鞍上は
太宰騎手ではない(
和田騎手だった)。
太宰騎手はこれまでにJRA重賞で5勝を挙げていたが、
2~9番人気でのもの。今回の
平安Sが
220回目のJRA重賞での騎乗だったが、1番人気馬に騎乗するのは
3度目だった。
キャリア22戦で3度目の
1番人気に推された馬と、220回目のJRA重賞騎乗で3度目の
1番人気に推されたジョッキーだったわけで、
太宰騎手が先のコメントをしたのも大きく頷ける。
JRA重賞で
太宰騎手が
1番人気馬に騎乗したのは、
00年シリウスSでの
エイシンサンルイス(②着)と、
12年京都大賞典での
フミノイマージン(④着)だった。人馬ともに、今回は
三度目の正直での重賞制覇だった。
オークスでの
シンハライトほどではなかったかもしれないが、
池添騎手がレース後に「ホッとした」とコメントしていたように、
重賞で
1番人気に推されることは相当なプレッシャーなのだろう。それを克服して勝利を掴んだ時、
ひとつ上のステージに行けるような気もする。
ダート界では、
ゴールドアリュールや
カネヒキリなど、若い頃からダートで人気を背負って強さを見せた馬がいる一方、例えば
タイムパラドックスや
ホッコータルマエなど、レースを使われて成長し、頂点に立った馬もいる。
ホッコータルマエは今でこそダート重賞では必ず
上位人気に推されているが、3歳時のダート重賞(4戦)では2~9番人気で、OPで初めて
1番人気に推された
12年フェアウェルS(3歳12月)では②着に敗れている。翌走の
13年東海S(4歳1月)でも
1番人気に推されながら③着に敗れた。
ところが、その後の
13年佐賀記念(4歳2月)を
1番人気で勝利(3馬身差)すると、そこから4連勝で
かしわ記念(2番人気)を勝ち、5連勝目で
帝王賞(3番人気)も制してみせた。その後はご存知の通り、通算で
G1(Jpn1)10勝を挙げている。
タイムパラドックスも、準OP以上のダートでは5歳時に3戦で
1番人気に推されながら敗れていた。しかし、6歳10月に
白山大賞典を
1番人気で勝利(7馬身差)すると、その次々走の
ジャパンCダート(4番人気)を制覇し、通算で
ダートG1(Jpn1)を5勝するまでになった。
エスポワールシチーも、4歳3月に
マーチSを
1番人気で勝って初重賞制覇を果たすと、その次走から
G1(Jpn1)5連勝という離れ業を成し遂げている。
マーチSよりも前のダート重賞は②④着だったから、何かが
覚醒したのではなかったか。
芝よりもダートの方が
“敗れることで強くなる”面が見られ、強くなった馬が
1番人気で勝利することで、
もう一段上のステージで戦える強さを身に付ける傾向がある。
今回の
平安Sには、前走の
アンタレスSを勝利していた
アウォーディーも出走を予定していたが回避し、
アスカノロマンが
1番人気に推されることにつながったと思う。しかし、そのチャンスを掴み、勝利した意義は大きいだろう。
馬だから新聞を読めるわけではないだろうが、
1番人気で勝利することは、人にも馬にも
自信を与えるのだろう。
太宰騎手の話では、
アスカノロマンは
「もう一段良くなりそう」とのことだ。
帝王賞以降のG1戦線で
目の離せない存在となってきそうだ。