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ジェンティルドンナのような勝負根性と切れ味だった
文/後藤正俊(ターフライター)、写真/川井博


桜花賞馬ジュエラーが骨折のため出走回避、その桜花賞で断然の1番人気(④着)となったメジャーエンブレムがNHKマイルCに回った。メジャーエンブレムがNHKマイルCを圧勝したことから桜花賞のレースレベルが高かったことは証明されており、ジュエラーからハナ差②着だったシンハライトオークスの主役を務めることは当然の流れだった。ファンも単勝2.0倍の圧倒的な支持をした。

今春のG1は惜敗続きの池添騎手だったが、この日の騎乗ぶりには自信がみなぎっていた。ダンツペンダントが引っ張ったことで、前半1000mは59秒8と淀みのない流れ。シンハライトは後方から4番手の位置に控え、2枠3番の枠順を最大限に活かすために馬群の内を回り続けた。

馬場状態の良さを考えると、この位置では前を捉え切れない恐れがあるし、18頭立てで内を回り続けることは包まれるリスクが大きい。単勝2.0倍の人気馬に騎乗している騎手としては、かなり勇気がいる騎乗だったことだろう。

それでも池添騎手は落ち着いて、直線に入っても馬群の中で前が開くのをじっと待っていた。「開けば必ず前を捉えられる」と末脚に絶対的な自信があったのだろう。その手応え通りに、シンハライトは前が開くと1頭だけ別次元の切れ味を見せ、一旦抜け出した5番人気ビッシュを一気に交わし、大外を回って追い込んだ2番人気チェッキーノを抑え込んだ。

上がり3ハロンはチェッキーノと同じメンバー中最速の33秒5。着差はクビだったが、その差はどうやっても縮まることがないと思える、まさに完勝だった。

この日の馬体重は422キロと小柄な馬体だが、馬群に包まれてもひるむことはなかった。抜け出す時にデンコウアンジュと激しく接触したが、脚は鈍らなかった。その勝負根性と切れ味はまるでジェンティルドンナのようで、父ディープインパクト譲りのものに違いない。

シンハリーズ米G1・デルマーオークス勝ち馬で、G1・アメリカンオークスではシーザリオ(エピファネイア、リオンディーズの母)の③着。当時の⑨着がイスラボニータの母イスラコジーンだったことから、このレースのレベルの高さが伺える。

兄姉のアダムスピーク、リラヴァティ、アダムスブリッジがいずれもオープン入りしており、血統面の楽しみは非常に大きい。秋華賞で実現するかもしれないジュエラー、メジャーエンブレムとの3歳G1牝馬同士の対決が、いまから楽しみだ。

ディープインパクト産駒は、③着にもビッシュが入り、産駒がデビューしてからオークスでの6年間の通算成績は[3.3.3.14]となった。馬券対象の半分がその産駒というすさまじい記録である。

これまで勝ち星がなかった皐月賞でも今年は①~③着を独占して、「中山コースが苦手」とか「牡馬産駒がいまひとつ」などという風評も蹴散らしていた。来週の日本ダービーでもその主役の座は譲りそうもない。種牡馬界の絶対王者として、もはや手が付けられない状況になってきた。

今春の余勢種付け料は父サンデーサイレンスの全盛期に並ぶ3000万円が設定されているが、それでも申し込みは殺到している。また今年の2歳世代からはディープブリランテトーセンホマレボシと2頭の後継種牡馬もデビューする。2世種牡馬の成績次第で、偉大な父を超えるような存在に上り詰めていくのかもしれない。

生産者のノーザンファームは、今年の国内G1はメジャーエンブレムのNHKマイルCが初勝利とやや不振な出足だったが、そのうっ憤を晴らすかのようにオークスでは①~④着独占。オークスは昨年も①~④着で、2年連続の上位独占となった。ダービーの上位人気も占めそうで、こちらの勢いも止まりそうもない。

人気馬がその実力を遺憾なく発揮した非常に見応えのあるレースだったのだが、ひとつ残念だったのが「審議制度」についてだ。シンハライトが抜け出す時にデンコウアンジュと接触して、デンコウアンジュはバランスを崩した。いまの降着制度では、直線半ばでのこの程度の接触では降着にはならないことは、ファンにも浸透してきている。結果については特に問題ないと思っている。

だが、審議ランプが点灯することがなかったのに、レース後にパトロールフィルムを放映して、池添騎手には2日間の騎乗停止処分を出したことは、やはり理解しにくい。馬券対象の上位入線馬がインターフェアの対象なら審議ランプを点灯させて降着かどうかを審議し、その上で「降着なし、騎乗停止2日間」という発表を行う方が、ファンははるかに判りやすい。

オークスは、普段は馬券をあまり買わない女性ファンも多く参加しているレース。判りやすさ、公正さをアピールする絶好の機会だっただけに、なおさら残念だった。JRAにはぜひ一考してもらいたい。