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宝塚記念におけるトレンドは「牝馬」となっていくかもしれない
文/吉田竜作(大阪スポーツ)、写真/森鷹史


夏のグランプリとしてすっかり定着した感のある宝塚記念。今年は2冠馬ドゥラメンテを筆頭にキタサンブラックアンビシャスといったハイレベルな4歳世代がズラリと名を連ね、昨年の同レースの覇者ラブリーデイが4番人気に押しやられる情勢に。

中でもドゥラメンテはこの秋にかかる期待も大きく、ファンもそれを単勝オッズ1.9倍という圧倒的な人気で支持した。ところが、半ば夏に突入した競馬はひと筋縄ではいかなかった。

前日まで降り続いた雨に加え、気温も当日になって一気に上昇。初の阪神遠征ということもあって、他馬よりも1日早く仁川入りしていた1番人気馬だが、目まぐるしい気候の変化は少なからず体調面に影響を与えたのではないか。

パドックでこそ平常心で周回できていたが、馬場に出るころには白く泡立った汗が目立つほどに。強靭な末脚とは裏腹に、繊細な面も併せ持つ最強馬。スタート地点では彼の内面に何か“違和感”が生じていたのかもしれない。

道中は勝ったマリアライトとは内外の違いはあれ、ほぼ同じポジションを追走。馬群の中でも折り合ってスムーズに見えた。ただ、追い出す前から本来のうなるような仕草もなく、いざ追い出されてからの反応、加速も本来のものではなかった。

本来の、重心を低くして襲い掛かるように伸びるフォームからも程遠い走り。それでもゴール前は猛然と差を詰め、キタサンブラックをハナ差交わすところまではいったのだが…マリアライトにはクビ差届かなかった。その後、1コーナーのところでデムーロが下馬。現役最強馬は馬運車で仁川のターフから退場する羽目になってしまった(JRA発表によると、競走中に左前肢跛行を発症)

とはいえ、ふたつ目のG1タイトルとなったマリアライトの勝利に傷がつくことはない。スタートはいつものように速くはなかったが、じっくりと構えて中団よりも後方を追走。キタサンブラックが作ったペースは稍重の馬場で1000m通過が59秒1。キタサンブラックにとってはライバルをハイペースに巻き込み、“肉を切らせて骨を断つ”戦法だったことだろう。

しかし、そのポジションを取ったマリアライトにとっては願ってもない展開。あとは内回りコース特有の3、4コーナーの混雑さえ回避できれば久保田調教師のいう「使う以上は一発を狙う」ところまで来たと言ってよかった。

そして、主戦・蛯名はこの期待に見事にこたえてみせる。3コーナーから馬群の外から手を動かしてポジションを押し上げにかかり、4コーナーではまくり切って先頭へと並ぶ勢い。持ったままで直線を向いたラブリーデイとは対照的な手ごたえだったが、これこそがマリアライトの武器。一度トップギアに入ってスピードに乗ってしまえば馬場も坂も苦にせず最後まで伸び切る。それを信じて蛯名は必死に追った。

「みっともないくらい追いました。頑張ってくれ、と。自分にも頑張れと(笑)」。粘るキタサンブラックを坂上で捕らえ、猛追するドゥラメンテをしのいだところがグランプリ制覇のゴールとなった。05年に同レースを制したスイープトウショウも豪華メンバー相手での勝利だったが、今回のマリアライトの勝利もそれに並び称されるレベルと言って差し支えないだろう。

内回りコースにおける外枠というのはコーナーへの入りや外を回らされることで有利とはいえないもの。ただ、マリアライトの場合はどうやらこれも追い風になったのかもしれない。

昨年の有馬記念でも大外枠を引きながら0秒1差の④着。半兄クリソライトを筆頭に血統的に他馬を気にする馬が多いだけに、マリアライトにとっては今回のもまれないポジションが取りやすいピンク帽もプラスになったのだろう。

加えていうならば「夏」という季節も、定説どおりに牝馬のマリアライトにとってはプラスとなったか。調子を崩していく馬が多い中で「ひと叩きしてすごくよくなっていた。状態に関しては自信が持てた」トレーナーもかなりの上昇気配を感じていたよう。

温暖化の影響もあってか、年を追うごとに気温が高くなっていく現在。昨年の②着のデニムアンドルビーの走りなどを見ても、宝塚記念におけるトレンドは「牝馬」となっていくかもしれない。そして、後年それが定着した時…今年のマリアライトの勝利は長くファンの記憶に残る物となるのではないか。