ベルカントがシリーズ連覇へ向けても大きく前進
文/浅田知広
日本で唯一の直線コース・新潟芝1000mで行われる
アイビスサマーダッシュ。今さら言うまでもなかろうが、みなさんご存じ、
外枠有利のコースである。
もっとも、内の各馬が外に押し寄せてくる上、1000m戦では道中のタイム差がつきづらく密集しやすい。そのため、せっかく外を引いても外ラチ近くで包まれ、抜け出すのに手間取る馬も見られるものだ。さらに、上がりも速くなるコースのため、わずかな
ロスを取り返せずに終わるケースも少なくない。
たとえば昨年のこのレース。13番の
ベルカントは、外ラチ沿いの3番手あたりから、前に入られることもなく楽々と抜け出しての完勝だった。しかし、隣の12番枠からスタートした
アースソニックは差し脚質ということもあり、残り400mあたりで内に切り替えざるを得なくなって、②着にハナ差届かずの③着。
ベルカントとは明暗くっきりわかれた。
さて、今年。その
連覇を狙う1番人気
ベルカント。今年は13頭立てのため、4枠4番でも外から詰めるとコースの中央付近になり、先行力のあるこの馬にとっては問題ないだろう。続く2番人気の
ネロは大外13番。好発を決めれば文句なしだが、仮に11番
アットウィル(4番人気)あたりに前へ入られるとどうか、というところだった。
しかし、ゲートが開けば大外
ネロは好ダッシュ。
アットウィルが行く気を見せなかったため、難なくハナを奪うことに成功した。一方、馬場の中央で
ベルカントは1馬身ほどのリードを取っており、じんわり外へと寄せていく形。力のある人気2頭がすんなり先頭、2番手、しかも有利な外を確保したことで、よっぽどのことがなければ
平穏な決着が予想される展開になった。
対して、3番人気の
プリンセスムーンは、
ベルカントの内で少し前が詰まる形に。
ネロを下した前走では進路を切り替えつつ差し切っていたが、当時の斤量差4.5キロが2キロになった今回、しかも開幕週となるとちょっと
苦しい態勢だ。
そして残り400mを切ると、そのまま
ベルカントと
ネロが外ラチ沿いで一騎打ち、かと思いきや。
ベルカントの鞍上・
M.デムーロ騎手の手が動き始めると、徐々に内へと切れ込んで行くではないか。昨年も少しそんなところは見られたが、左ムチを入れつつほぼ外ラチ近くで先頭ゴール。しかし今年は、さらに内へ向けてじりじり寄っていったのだ。
さて、突然内の
ベルカントがいなくなってしまったのが
ネロである。そのまま外ラチ沿いを突き進む手もあっただろうが、もともと少し内にもたれ加減に走っていたこともあり、ワンテンポ遅れて
ベルカントに馬体を併せにいく形になった。ほんの数秒前までは、外ラチ沿いでの一騎打ち態勢。ゴール板前で待ち構えていた
ファンからすれば
「来るぞ来るぞ」というところから、近づいてきたけど離れていった、という感覚だろうか。
ともあれ、馬場の中央付近まで斜めに走った2頭の追い比べ。ゴール前はクビの上げ下げ……、とはならず、2頭の上げ下げのタイミングはほぼ同じ。どうやっても体が前にいる方が順位も上、という態勢で、内の
ベルカントが外
ネロを競り落とし、
連覇を達成したのだった。
最終的にはアタマ差決着。単純に走破距離だけを考えれば、
ネロがまっすぐ外ラチ沿いを走っていれば逆転していた可能性もあるだろう。ただ、先にも触れたように、少しもたれ気味だったのを修正したら
ロスはどの程度あったのか。また、馬体を併せてより根性を出せたのはどちらだったのか。勝ち時計54秒1、その終盤23秒くらいの中に、
勝敗を分けそうなポイントがいくつもあった、今年の
アイビスサマーダッシュだった。
これで
ベルカントは
CBC賞③着とあわせ、サマースプリントシリーズ計14ポイントを獲得し、
シリーズ連覇へ向けても大きく前進した。次走予定は昨年同様、
北九州記念とのこと。昨年はハンデ55キロだったが、今年は56キロ以上が課されそうで、斤量との戦いにもなってくる。
これまで
サマーシリーズ連覇を達成したのは、08~09年に
アイビスSDを連勝したカノヤザクラ1頭だけ。09年の
北九州記念ではハンデ56キロで③着だったが、同じ
サクラバクシンオー産駒の
ベルカントは、きっちり勝って決めることができるだろうか。