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ヴゼットジョリーの快勝により早くも成功の予感
文/出川塁、写真/森鷹史


父プリサイスエンド母の父キャプテンスティーヴ。どこからどう見ても完全なダート血統の馬が、4角最後方から上がり1位の32秒9を繰り出して②着に突っ込んできたのには驚いた。血統馬券派にはどうにも手を出しにくい、その馬の名はオーバースペック。由来は「過剰性能」なのだから、名は体を表すというかなんというか。

この馬には4頭の全兄がいて、これまでに中央で合計35戦しているものの、芝を走ったのはわずかに1戦のみ。そもそも芝を走らせようとすら思わないような血統を持つオーバースペックが、芝でデビューして2戦目で勝ち上がり、重賞でも②着に好走を果たした。この芝適性をデビュー前から見抜いて名付けたのだとすれば、凄まじい相馬眼の持ち主だ。

寡聞にして実際に名付けた方までは存じ上げないが、本馬の生産者と馬主の欄に記されているのはミルファーム。渋い血統の馬を勝ち上がらせる手腕にかけては天下一品のオーナーブリーダーである。

そんな過剰性能を発揮してもなお、勝ち切るには至らない。これもサラブレッドの血統が持つ重みなのだろうか。勝ったのはヴゼットジョリー。ソツのないスタートから一旦控えて直線半ばで外に持ち出し、先頭に立ってからもオーバースペックの猛追を寄せ付けなかった。牝馬の新潟2歳S勝利は、3年前のハープスター以来となる。

その3年前の2013年に、皐月賞を勝つなど目覚ましい活躍を演じていたのがロゴタイプ。今年も安田記念を勝つなどまだまだ健在だが、この馬の活躍によって父ローエングリンの種付け頭数も、2012年の30頭から2013年は176頭まで飛躍的に増加した。

ヴゼットジョリーもその中から生まれた1頭で、父ローエングリン母の父サンデーサイレンスの組み合わせはロゴタイプとまったく同じ。この組み合わせの2歳馬には、ヴゼットジョリーと同じ7月23日にデビューしてともに新馬戦を勝ったペイドメルヴェイユもいて、早くも成功の予感を漂わせている。

現在の生産界では、溢れかえるサンデーサイレンス系の繁殖牝馬に対して自由に交配できる、サンデーの血を持たない種牡馬を見つけることが大きなテーマとなっている。これを見つけた生産者が次の主導権を握るといっても過言ではないかもしれない。社台グループハービンジャーワークフォースタートルボウルノヴェリストなどサンデー系と交配可能な種牡馬を海外から積極的に導入しているのも、そうした事情をわかっているからだろう。

ただし、十分に満足できる結果が出ているかといえば、今のところはそうとも言い切れないのが現実だ。むしろ、ローエングリン産駒ヴゼットジョリーが①着、ルーラーシップ産駒イブキが③着に入った新潟2歳Sの結果が示す通り、もっと身近なところにも有力な選択肢があったのかもしれない。

種牡馬ローエングリンは、サンデー系繁殖牝馬との配合では必ずHaloのクロスが発生するという大きな武器を持っている。というのも、Haloのクロスを持つ馬が現在はとにかくよく走っているからだ。

象徴的だったのが今春の東京G1で、ヴィクトリアマイルオークスダービー安田記念Haloクロス馬が4連勝を飾った。サラブレ本誌で血統評論家望田潤氏らが指摘しているように、Haloクロス馬は一瞬の加速力に長けている。ヴィクトリアマイルの直線で瞬く間に後続を引き離したストレイトガールや、仕掛けられてからスピードに乗るまでがスムーズなマカヒキのレースぶりを見れば理解しやすいだろう。

個人的な話になるが、そんなHaloクロスの効果を認めながらも、私自身はかなりのハービンジャーマニアなのである。最近はすっかり評価を落としてしまった印象で、なんとか産駒たちには頑張ってほしいと期待している。

しかし、能力自体は秘めていそうでも、いざ実戦となると素早い脚を使えない馬があまりにも目立つ。だから、スタートダッシュがつかずにポジションが悪くなりがちで、勝負どころに差し掛かってもスピードに乗るまでの時間がかかってしまう。新潟2歳Sで1番人気に推されながら⑧着に敗れたモーヴサファイアも、折り目正しいハービンジャー産駒の負け方だった。

どうしたってジワジワとしか伸びない我がハービンジャーからすると、Haloクロス馬の加速力は羨ましい限りである。正直、ここに至って本稿の落としどころが見えなくなってきた感もあり、の筆力ではスペックオーバーだったかと世の無常を味わいつつもあるが、それでも人生は続いていく。こちらはこちら、あちらはあちら。これからもハービンジャーなりに頑張っていくしかない。