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完成の域に入り、今年は胸を張ってスプリンターズSへ!
文/出川塁、写真/森鷹史


2000年にスプリンターズSが9月末~10月上旬の開催に変更されたことに伴い、セントウルSはその前哨戦として秋競馬の開幕週に行なわれるようになった。

それからのセントウルSといえば、1番人気に推された短距離G1馬が②着に敗れる歴史が繰り返されてきた。2000年のブラックホークにはじまり、2003年のビリーヴ、2009年のスリープレスナイトもそうだった。そして、記憶に新しいのが2013年のロードカナロアだ。

もちろん、この馬を相手に逃げ切ったハクサンムーンも強い馬だったが、この時期のロードカナロアはまさに絶頂期。前年のスプリンターズSから数えて5連勝中で、前走の安田記念ではマイルを難なく克服し、その後もスプリンターズS香港スプリントを連覇することになる。しかし、そんな史上最強スプリンターの1頭をもってしても、このG2に限っては勝ち切るに至らなかった。

セントウルSに出走するためには夏の暑い盛りから仕上げを開始しなければならないし、本番のスプリンターズSを終えても秋シーズンには先が残っている。ロードカナロアのように12月のレースまで見据えれば、9月上旬の段階で仕上げられる状態には限度がある。加えて、セントウルSはサマースプリントシリーズの最終戦。シリーズ優勝を目指して勝負駆けをしてくる馬もいるので、王者にはとってはますます容易ならざるレースとなる。

といったことを考えながら今年はどうかと見ていたところ、ついにジンクスは破られた。春のスプリント王者、ビッグアーサーが逃げ切って快勝。史上はじめて、その年の高松宮記念勝ち馬がこのレースを制すこととなった。

スタートは13頭がほぼ横並び。ただし、そこからの二の脚でビッグアーサーが抜きん出ていた。もう1頭のG1馬スノードラゴンに外から被せられるように前に出られた瞬間は、首を上げて折り合いを欠くような素振りを見せたものの、福永祐一騎手が引かなかったのが好判断ですぐさま落ち着きを取り戻す。そのまま楽な手応えで直線を向くと、余裕を持って後続の追撃を封じる。王者の秋初戦としては厄介なセントウルSを、実に危なげなくものにした。

ビッグアーサーが逃げたのはデビュー以来はじめてのこと。どちらかといえば差しタイプのイメージで、この光景には意外な印象もあった。しかし、本稿を執筆するためにVTRを繰り返し見ているうちに、あることを思い出していた。ビッグアーサーの父、サクラバクシンオーのことである。

ロードカナロアを最強スプリンターの「1頭」という表現にとどめなくてはならないのは、この馬の存在があるからにほかならない。引退レースとなった5歳時のスプリンターズSに、短距離馬の理想像を見る人は今も多い。もちろんもそのひとりだ。前半600mが32秒4の超ハイペースを悠然と追走し、持ったままの手応えで後続を突き放して4馬身差の圧勝。勝ち時計は1分7秒1、当時の馬場としては破格のレコードが計時されていた。

その偉大すぎる父の領域には、まだ届いていないのかもしれない。それでも、父が先行型スプリンターとして完成した5歳の秋に、逃げて後続を完封する競馬を披露したビッグアーサーもまた、完成の域に入ってきたことは間違いない。わずかに折り合い面が瑕になる可能性は残ったものの、賞金不足で除外の憂き目に遭った昨年のウサを晴らすべく、胸を張ってスプリンターズSへと歩を進める。

最後にもうひとつ。冒頭に述べたことを自己弁護するわけではないのだが、今後はセントウルSで短距離王者が盤石の姿を見せつけるようになるかといえば、そんなことはないと思う。

今年はサマースプリントシリーズ優勝の可能性を残した馬の登録がなく、相手が王者だろうと①着を目指して果敢に挑んでくるような馬は見当たらなかった。それは実際のレース展開を見れば明らかなはずだ。ビッグアーサー完全開花を見届けつつ、こと馬券という点では来年以降も、ビッグアーサー的な立場の馬が出てきたら②着付けでいきたい。そのように考えている。