底力を問われる流れで樫の女王の強さが光った
文/編集部(M)、写真/稲葉訓也
チューリップ賞が
ハナ差、
桜花賞も
ハナ差で、
シンハライトと
ジュエラーについては
力量は互角と見る人が多かったのではないだろうか。ただ、今回の単勝人気は、1番人気が
シンハライトで1.6倍。2番人気の
ジュエラーは3.7倍で、2倍以上の差が付いた。
どちらも休み明け初戦だったが、
シンハライトが
オークス制覇以来の約4ヵ月ぶりだったのに対して、
ジュエラーは
骨折休養明けでの5ヵ月ぶり。その辺りがシビアに評価されたのだろう。
レース時に雨は上がったものの、馬場コンディションは2頭が経験したことのない
道悪馬場(重馬場)となった。個人的には、こんな馬場でも2頭による
名勝負数え歌が継続されてほしい、と願ったが、それは叶わなかった。
シンハライトが
クロコスミアを差し切って
重賞連勝を果たしたのに対して、
ジュエラーは直線で伸びを欠いて
初の大敗(⑪着)を喫してしまった。
シンハライトは母父が
サドラーズウェルズ系(シングスピール)の
ディープインパクト産駒で、こんな馬場にも適性があったのだろう。むしろ気になったのは、
オークス時と比べて
14kgも増えて(436kg)出走してきたことだった。
もともと小柄なタイプだから、これぐらい増えても良さそうに思われた半面、
オークス馬がこれだけのプラス体重で出てくると
負け続けてきた歴史があったので、その点が引っ掛かった。
86年以降の
オークス馬で、
オークスの次走で
10kg以上のプラス体重で出てきた馬は14頭いて(いずれも3ヶ月半以上の休み明け)、
[3.0.0.11]という成績だった。勝利したのは
87年神戸新聞杯での
マックスビューティ(18kg増の488kg)、
97年オールカマーでの
メジロドーベル(10kg増の482kg)、
12年ローズSの
ジェンティルドンナ(12kg増の472kg)で、この3レースは
8~10頭立てだった。
多頭数だと、
アパパネや
スティルインラブなどが④着以下に敗れていた。今回の
ローズSは15頭立てだったので、
シンハライトの馬体重が
14kg増(436kg)というのを見て、
う~ん……と唸ってしまったのだ。
レースは道悪馬場ながら淀みなく流れ、後続馬は
なし崩し的に脚を使わせられる苦しい展開になった。
シンハライトは後方寄りの位置取りになり、外を回らされた。この辺りが多頭数の難しいところで、先に抜けた2頭(
クロコスミア、
カイザーバル)とは
走った距離に差があったと思う。それでも1頭だけ違う伸び脚を見せ、
33秒台の上がり(33秒7)で差し切ったのだから強い。
今回は
チューリップ賞での上位8頭が顔を揃え、同レースの再戦のように言われたが、
オークスに出走して掲示板に載っていた馬は
シンハライトだけだった。
チューリップ賞以上に
底力を問われる流れになり、2400mで
女王の座に就いた馬の強さが光る結果になった。
シンハライトはこれで6戦5勝②着1回という戦績になったが、2戦目の
紅梅S①着以降は勝っても負けても
0秒0差で、
タイム差なしのレースを5回も続けている。これは相当に珍しいことだろう。
調べてみたところ、90年以降の中央競馬で
タイム差なしのレースを
6戦続けた馬が2頭いた。1頭は
09年青島特別から③②②①③①着という成績ですべて
0秒0差だった
マチカネカミカゼで、もう1頭は
11年沖ノ島特別から③②②①③①着という成績だった
ダイメイザクラ。この2頭は500万~1000万での記録なので、
オープンクラスでこれだけの接戦をし続けている
シンハライトはかなり稀有な存在と言える。
もちろん、
シンハライト自身は接戦をしたくしてしているわけではないのだろうから、
秋華賞は
余裕のある勝利を飾りたいのだろう。ハナ差であっても勝つところに
この馬の強さを見る思いがするが、果たして
秋華賞ではどのようなレースになるだろうか。
人気薄ながら
シンハライトを脅かした
クロコスミアは、15頭の中で
いちばんの小柄(414kg)ながら淀みないレースを演出し、力のあるところを見せつけた。
ステイゴールド産駒は、たとえ小柄であっても
道悪馬場で強さを見せることがあるが、この舞台であそこまで接戦に持ち込むとは驚いた。
ステイゴールド産駒は侮れませんね……。
一方、⑪着に敗れてしまった
ジュエラーの敗因は、
骨折明けの影響か、
距離か、
馬場か、何なのだろう?
ワンカラットの妹であることを考えれば、
秋華賞でさらに距離が延びる点は良くないように思われる反面、
ヴィクトワールピサ産駒だから
小回りコースの方が良さが出そうにも映る。一度レースを走ったことで
状態面は上がってくるだろうから、本番でどこまで巻き返せるか。
シンハライトとの勝負付けは済んだとは、陣営も馬自身も思っていないことだろう。次の戦いでは、文字通り、
水が差されない馬場状態で対決してほしいと思うが……。