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ロードカナロアの域に限りなく近づけるかも、という希望も見えた!?
文/安福良直、写真/森鷹史


「ビッグアーサーは、ロードカナロアの域に達しているのかどうか?」

今回のスプリンターズSの大きなテーマはこれだったと思うが、「まだまだ」と言わざるを得ない結果になってしまった。

春の高松宮記念で待望のG1初制覇を果たし、休養明けのセントウルSでは、今までやったことがない逃げの競馬で楽勝。短距離ならどんな競馬をしても勝てる、と言わんばかりの強さを見せつけたが、結果的にはそれが油断につながってしまったのだろうか。

今日も好スタートを決めて、サッと好位へ。最内の1番枠を引いていたので、前半でロスがあって馬群に包まれると大ピンチだったが、4コーナーまでは位置取りとしては文句なし。ただ、前走で逃げの手に出たからか、少し行きたがる素振りを見せていた。そこでの気負いが悪い結果につながってしまったようだ。

直線で抜け出しにかかろうと、前を行くサトノルパンの外に出そうとしたらデムーロレッドファルクスに入られ、ならばと内に切れ込んだら武豊ブランボヌールと進路が重なり、ここで万事休す。一流騎手は本命馬を楽には勝たせてくれない、という見本のようなパターンになってしまったが、道中のわずかな気負いが、動きたいときにスッと動けないことにつながった面もあるだろう。このあたり、ロードカナロアは静と動の切り替えが実にハッキリしていたよなあ。

今日のビッグアーサーは、まだロードカナロアの域には達していなかった、ということになるが、サクラバクシンオー産駒は晩年まで衰えない馬が多いので、今後も成長して、本当にどんな競馬をしても勝てるという馬になってほしい。今日のダメージが残っていないようなら、香港スプリントなどに挑戦してほしいところだ。

さて、ビッグアーサーチグハグな競馬になってしまったが、勝ったレッドファルクスは文句なく強かった。好スタートから中団の前につけて道中はスムーズに運び、3コーナーから外を回って追い出して4コーナーで先行集団の直後へ。ここまではコースロスの大きい競馬で、「見せ場は作ったが最後に失速」のパターンにハマってもおかしくなかったのだが、直線の急坂でさらにひと伸びし、逃げたミッキーアイルをギリギリ捕らえた。

体調も良かったのだろうし、G1でデムーロ騎手が発揮する腕力もさすがだが、それに応える強さが馬にないと勝てないのも事実。今春まで主に左回りのダートで走っていて、芝のG1なんて想像もつかない成績だったのが、トモの状態が良くなったとのことで、OPで芝、そして右回りと続けて克服。芝短距離界の新星誕生と言っていいだろう。

今日は体力だけで勝った、という感じのレースだったが、今後、スプリンターとしてのレース運びを身につけるようなら、ビッグアーサー以上の大物に育つかもしれない。

そして、春に続いて②着に泣いたミッキーアイル。今日は外枠でハナに立つまで少し時間がかかったが、そこからは思い描いていたレースはできたはず。前半3ハロン33秒4というペースもちょうどよく、ビッグアーサーが後ろでもがいていたから、「今日はもらった!」と思ったはず。それでも勝てなかった。

外枠が響いた、といってもそれは勝ったレッドファルクスにも言えること。今日はレッドファルクスに対しては負けを認めざるを得ないだろう。ビッグアーサーもそうだが、この馬ももうひとつG1タイトルを身につければ、種牡馬としての価値がグンと大きくなると思われるだけに、歯がゆい敗戦。まだまだスピードに磨きをかける必要があるのだろうか。

ロードカナロアの引退以降はやや低調だった芝短距離戦線。今日の結果ではまだまだロードカナロアは超えられないが、それでもレッドファルクスミッキーアイルビッグアーサーの5歳牡馬3頭が今後ハイレベルな戦いを繰り広げていけば、ロードカナロアの域に限りなく近づけるのではないか、という希望も見えたように思う。このスプリンターズSが、新たなライバル対決の始まりになれば、それで良しとしたい。