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大外を選択した戸崎騎手のファインプレーが生んだ快勝劇
文/編集部(T)、写真/川井博


人気が予想されたリアルスティールが回避(天皇賞・秋へ直行)。単勝1番人気は紅一点のルージュバックで、そのオッズは3.3倍。以下、単勝10倍を切ったのは5頭で、今年の毎日王冠上位拮抗の混戦模様となった。

12頭立てということもあって、逃げたマイネルミラノが作ったペースは稍重馬場前半1000m通過が60秒3。このペースを見て、自分は「けっこう落ち着いたなあ」と感じた。そして、先行馬を中心に馬券を組み立てていたので(しめしめ)でもあったのだが。

同じ稍重馬場だった毎日王冠を振り返ると、10年は前半1000m通過が58秒9、05年は61秒2、04年は59秒7、03年は58秒7。同じ稍重でも差はあるだろうが、これを見る限りスロー寄り、といったところか。

それは後方に控える形(4角11番手)になったルージュバックの鞍上・戸崎騎手も感じていたようで、レース後に「思ったよりスローになった」という趣旨のコメントを残している。

昨年はエイシンヒカリが逃げ切ったように、毎日王冠は先行有利の傾向があって、過去10年の勝ち馬はすべて4角9番手以内。それだけにルージュバックが勝ち切るまでは苦しいか?」と思ったところで様相が一変。マイネルミラノの脚が鈍ると、ゴチャつく内を横目に外に持ち出したアンビシャス、そしてその外からルージュバックの末脚が一閃。この2頭で抜け出し、食い下がるアンビシャスをクビ差振り切ってルージュバックが重賞連勝を決めた。

勝ち馬ルージュバックだけでなく、②着アンビシャスは4角9番手、③着ヒストリカルに至っては道中で大きく離れた最後方追走で、完全な差し決着に。この上位3頭は持てる末脚をフルに発揮しての結果といえるだろう。

これを見て、自分は荒れ馬場の競馬を思い出した。芝コースで内目が荒れてくると、良い馬場を求めて直線で外に持ち出す馬が増えてきて、極端に荒れると逃げ馬も含めて全馬が馬場の真ん中より外に出てくるが、そういった馬場で行われるレースだ。

ところが、この日の東京は開幕週。逃げた馬は当然のように最内を回ってくるし、先行した馬が外に持ち出すようなケースも見られなかった。

そんな中、戸崎騎手はこのレースで大外を選択。開幕週にもかかわらずこの選択は勇気が要ったのでは、と感じるが、この日の戸崎騎手のレースぶりを見ると、そうでもなかったのでは、とも思えてくる。

というのも、この日の戸崎騎手は芝で①①③①着と好成績だったが、この4頭は枠順にかかわらず(4頭中3頭が7~8枠ではあったが)直線で外、それも大外を通って4頭すべてにメンバー最速の上がりを使わせている。

この結果を見ると、内を通ると伸びづらい馬場を見極めた上で、先行馬たちが内を通る=案外伸びないことを見越して外を選択したのでは、とさえ思えてくる。

この慧眼は見事としか言いようがないし、結果も残しているから脱帽だ。(しめしめ)と感じていたのは、自分ではなく戸崎騎手だったのかもしれない。

そして、その期待に応えたルージュバックもまた見事。近2走の内容を見る限り、デビューから3連勝した3歳時よりも力を増している印象を受ける。

この成長力には、血統的な裏付けがある。母ジンジャーパンチの3歳時は条件戦で勝ち切れないケースさえあったが、4歳夏に重賞初制覇を飾ると、その年の秋にBCディスタフ(G1)を制して米最優秀古牝馬に登り詰めている。その娘であるルージュバックが同じような成長曲線を描いたとしても、何ら不思議はないだろう

ルージュバックきさらぎ賞を制した時、自分は「レースインプレッション」“歴史を作る牝馬”と書いた。毎日王冠を制した牝馬は93年シンコウラブリイ以来とのことだが、そんなところにとどまらない、もっと大きな“歴史”を作ることを、デビューから一貫してコンビを組んでいるルージュバック戸崎騎手には期待したい。