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勝つときはこんなものかというほどすべてが上首尾に
文/出川塁、写真/森鷹史


阪神JFNHKマイルCを勝ったメジャーエンブレムは7月の段階で秋競馬からの離脱が決定。オークス馬シンハライトも秋初戦のローズSを制したまではよかったが、10月5日に屈腱炎を発症していることが判明。桜花賞馬ジュエラーも骨折は癒えたものの復帰戦のローズSで⑪着に大敗。今さらではあるのだが、春のクラシックで激戦を戦い抜いたうえで、無事に夏を越すのは難しい。そんな当たり前のことを改めて思い知らされたのが、今年の秋華賞前の状況だった。

そんななか、1番人気に推されることになったのが関東馬のビッシュだ。オークス③着と春の時点からトップクラスの一角を占めていた実力馬が紫苑Sを好タイムで快勝し、さらに成長した姿を披露。自分から動いて2馬身半差をつける内容も圧巻で、本命視されたのもうなずけるところだった。

しかし、秋華賞ではいいところなく敗れてしまう。後方待機から3角手前あたりで徐々に進出するレース運びは前走同様でも、直線ではまったく伸びずに着。当日馬体重マイナス2キロと直前輸送を上手にクリアしたかに思われたのだが、そもそも418キロと小柄な3歳牝馬だけに数字以上に堪えてしまったのか。

この1番人気馬よりもっと小柄な414キロながら、関西所属のヴィブロスが制したことを考えても、関東→関西の輸送は外から見ている以上に難しいのだろう。前走の紫苑Sではビッシュに2馬身半差をつけられたものの、3~4角で下がってきた馬の煽りを受けた不利を考慮すればもうすこし評価することは可能だった。

レースでは好スタートを決めると一旦控えて、前後に二分された馬群のうち、後ろのグループの先頭に陣取る。数字でいえば10番手あたり。1000m通過は59秒9の平均ペースで、外から被されることはなく、かといって大きなコースロスもない絶好の位置。4角で馬群をさばく必要もなく、あとは外に持ち出して追うだけ。

2週前のスプリンターズSでは大本命のビッグアーサーに乗って厳しい競馬になってしまった福永祐一騎手だったが、勝つときはこんなものかというほどすべてが上首尾にいった。これで福永騎手中央牝馬G1は10勝目。現代を代表する牝馬の名手だが、秋華賞は意外にも初勝利だった。

それにしても、大魔神こと佐々木主浩氏「持っている」オーナーである。いや、本当はヴィルシーナとヴィブロスの全姉妹に、シュヴァルグランまで送り出した母ハルーワスウィートを見初めた相馬眼を称賛すべきなのだろう。とはいえ、これまでに中央で持った18頭のうち12頭が勝ち上がり、6頭がオープン入りを果たし、4頭が重賞を勝ち、2頭がG1馬というのは驚異的としか言いようがない。

そして、またしてもHaloのクロスを持つ馬の勝利である。私事となって恐縮だが、が「速攻インプレ」を初担当したのが今年7月の七夕賞。以来、今回で7レース目の記事で、そのうちHaloクロス馬が4勝というのも、なかなか驚異的だ。もちろん、驚異的なのはではなくHaloクロス馬なのだが、今後は出川担当のレースにHaloクロス馬がいるかどうか、なんらかのかたちで情報を発信すべきなのかもしれない(笑)。

最後に触れておかなくてはならないのは、①着ヴィブロス、②着パールコード紫苑S組がワンツーを決めたこと。主力となるべきシンハライトの離脱があったとはいえ、③~⑥着にローズS組がずらりと並んでおり、今年の秋華賞では紫苑S組が完全に上回る格好となった。

今年から紫苑Sが重賞に格上げされたのは、ご承知おきのことだろう。賞金が増額され、優先出走権の枠も拡大されたとなれば、出走馬やレースのレベルが上がるのは自然。また、直線の急坂の有無という違いはあるものの、紫苑S秋華賞は「小回りの芝2000m」という点で共通している。これまでは出走馬のレベル的な問題で結果が出なかったものの、重賞になったことでその問題が解消すれば、直結するのは自然だったのかもしれない。

同時に、ヴィブロスパールコードが「紫苑S組の関西馬」なのに対し、⑩着に敗れたビッシュは「紫苑S組の関東馬」だったことは見逃せない。過去のアパパネやヌーヴォレコルトのように栗東滞在で調整していれば違う結果が出ていたのかもしれないが、前述したようにビッシュは直前輸送での出走。紫苑Sが重賞になろうとなるまいと、2、3歳限定の関西牝馬G1に出走する関東馬は栗東滞在が断然有利。これは今後も変わらないG1獲りの鉄則と言えそうだ。