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“女フランケル”となれる可能性は示した
文/編集部(T)、写真/森鷹史


スタート直後、悲鳴にも似たどよめきがテレビを通しても聞こえてきた。単勝1.4倍という圧倒的1番人気に推されていたミスエルテが出遅れたからだ。

ところが、鞍上の川田騎手は落ち着いたもの。道中は馬群の中でジワリとポジションを上げて勝負所で外目に持ち出し、直線では鋭い伸びで前を交わして悠々とゴールに飛び込んだ。

レース後に川田騎手が語ったように、4コーナーや直線で押してもなかなか本気にならない感じだったが、一旦エンジンが掛かるとまさに矢のような伸び。最後までムチは一発も入らず、完勝といえる内容だった。

自身の上がりが33秒6で、これは③着のディアドラ、④着のクインズサリナと同じだが、エンジンの掛かりが遅く、ムチも入らなかったことを考えると額面通りには受け取れないはず。末脚のインパクトは、03年にこのレースを制したスイープトウショウに匹敵するものさえ感じた。

レース前、個人的にはミスエルテに対して、「そこまで信頼できるのかなあ……?」という目で見ていた。ファンタジーSで1番人気が10連敗中ということや、キャリア1戦の馬が11連敗中というだけではなく、その父がサドラーズウェルズ系フランケルだからだ。

そのフランケルは、デビューから無敗の14戦14勝G1を10勝、2012年度のワールド・サラブレッド・ランキングで140ポンドを獲得し、“怪物”と称された名馬。すでに日本でもソウルスターリング(アイビーS勝ち)がいて、そのポテンシャルが高いことは分かっていたが、その父がサドラーズウェルズ系ガリレオで、およそ芝1400mの2歳重賞が合いそうに思えなかったわけだ。

調べてみると、父サドラーズウェルズ系の馬が芝1400m以下の重賞を勝ったのは05年京王杯スプリングCアサクサデンエン(父シングスピール)のみ。牝馬に至っては勝ったことがなかった

マイル戦ならば今年新潟2歳Sを制したヴゼットジョリー(父ローエングリン)などがいるので、デイリー杯2歳Sでもいいのになあ……」と思っていた方もいるのではないだろうか。しかし、今回のレースぶりを見る限り、この選択は間違っていなかったのだろう。デビュー戦(阪神芝外1600m)では掛かる面を見せていたこともあったのかもしれないが、今回は逆にズブささえ感じさせたから、距離が延びるのもマイナスにはならないのではないか。

改めてフランケルの成績を振り返ってみると、これがミスエルテと似ている面が多い。デビュー戦は芝のマイル戦で勝利しているが、2走目は芝7F、初めてのG1制覇も芝7FのデューハーストSだ。そして、最後のレースとなった英チャンピオンSも出遅れているように、スタートは若干不安定な面を見せる馬だった。

それだけでは「女フランケル誕生!」と言えないほどの名馬を父に持つミスエルテだが、今回の勝ちっぷりでその可能性は示したのではないか

ちなみに、ファンタジーSをキャリア1戦で制した馬は、98年プリモディーネ、03年スイープトウショウ、04年ラインクラフトと、すべて後にG1馬となっている。今後は同じ父を持つソウルスターリングをはじめ、今回出走していなかったディープインパクト産駒もライバルとして浮上してきそうだが、今後は来年のクラシック路線を牽引する存在として期待したい。

ちなみに、「ミスエルテ」の綴りは「Mi Suerte」。スペイン語で“私の幸運”という意味を持つ。母ミスエーニョ(Mi Sueno、“私の夢”)から繋がっている馬名ということだろう。だから、読む時は「ミス・エルテ」ではなく、「ミ・スエルテ」となる。今後この馬の名前を読む機会はかなり増えてきそうなので、注意しましょう!