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楽しみな逃げ馬が重賞戦線に名乗りを上げた
文/編集部(T)、写真/森鷹史


娘が1歳半となって、育児書によると『それまでは一人で遊ぶことが多いが、この時期からは他の子と遊ぶことが増えてくる』そうだ。それを見ると、自分は「うちの子は保育園の中で浮いていないだろうか」とか、「仲間はずれにされていないだろうか」と気になってしまった。

日本人の気質として、仲間はずれを嫌がるということがよく言われるが、自分も典型的な日本人の親なんだなあ、と改めて思います(笑)。

保育士さんに聞いてみると、一人で遊ぶこともあれば友達と遊ぶこともあるそうで、常に落ち着いてマイペースだそうだ。こういう部分を見ると、娘は親より大物の相があるのかもしれない?

一方、競馬を含めた勝負事は、仲間から外れた個性的なタイプが勝者となるケースがしばしばある。以前流行ったフレーズを借りると、“オンリーワンがナンバーワンになる”わけだ。

今年の福島記念は、そういった“異質な馬”が上位を占める形となった。

ローカル開催のG3といえば、似たようなメンバーで、いかにも“それらしい馬”が多く出走してくる。G1やG2ではもうワンパンチ足りない感じで、G3なら上位を争う力はある……というタイプが各地を転戦するイメージだ。

秋G1まっただ中に行われる福島記念もそんなレースなのは間違いないのだが、たまに「え、この馬がここに出てくるの!?」という、“異質な馬”の参戦がある。まさに今年のゼーヴィントのようなタイプだ。

そのゼーヴィント、前走はセントライト記念ディーマジェスティとわずかクビ差の②着に好走していて、菊花賞をパスしてここに参戦となった。

調べてみると、90年以降の福島記念に出走した馬は延べ396頭。そのうち、前走が芝G1&G2で連対していた馬は[1.1.0.1]。396頭の中でわずか3頭しかいない。そして、05年①着のグラスボンバー、91年②着に好走した懐かしのツインターボと、結果を残してもいる。

一方、これはレース後に調べて分かったのだが、前走で中山芝1600mの準OPを制してここに出てきたマルターズアポジーもなかなかに異質なタイプだった。90年以降の福島記念で、前走が中央4場の準OPを使っていた馬は延べ23頭で、勝ってきた馬となると[1.3.0.5]。延べ9頭しかいないが、こちらも悪くない成績だ。

そして、レースはこの2頭のワンツーとなった。先手を奪ったマルターズアポジーがスイスイと逃げ、直線を向くまでほぼ持ったまま。直線で外を通って差を詰めてきたゼーヴィントを振り切り、初重賞のゴールを切った。

以下②着ゼーヴィント、③着ダイワドレッサー、④着マイネルハニーで、いずれも3歳馬。いわゆるローカルG3転戦組でない馬がここまで上位を占めると、もう“異質”とは言えない気もするが……今年の福島記念は、結果的にそういうレースだったのだろう。

ともあれ、マルターズアポジーはこれで重賞初制覇。ここまで17戦をこなしているが、4角で2番手以下となったのはプリンシパルS(それでも4角2番手)の一戦のみ。17戦のうち馬券圏内に入ったのは10戦で、⑦着以下に敗れたのが6戦。来るか惨敗かという戦績で、ここまで分かりやすい馬も最近は少ない気がする。

こういった逃げ馬がやっかいなところは、人気だとなかなか来ず、人気がないと来ること。マルターズアポジー全6勝のうち5勝が3~7番人気でのもので、1~2番人気だと4戦して1勝しかしていない。まあ、これは逃げ馬の宿命といえるかもしれませんね。

マルターズアポジーはまだ4歳で、順調ならあと数年は重賞戦線を賑わしてくれるだろう。こういった個性的なタイプが参戦するレースは難しいが、予想していて面白いと思う方は多いのではないだろうか。できれば、馬券的な相性が良いと最高なのだが……お手柔らかにお願いしたい(笑)。