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「勝手知ったる自分の庭」という走りだった
文/編集部(M)、写真/稲葉訓也


毎年11月に行われる東スポ杯2歳Sは、夏の重賞やOPで好走した実績馬と、秋に初勝利を挙げた素質馬の争いになりやすい。

2年前は新潟2歳Sでハナ差の②着に好走していたアヴニールマルシェを1戦1勝だったサトノクラウンが破り、昨年は2戦2勝でOPを勝っていたロスカボスプロディガルサンが1~2番人気に推されたが、2戦1勝だったスマートオーディンが差し切った。

近2年は実績馬が敗れる形だったが、3年前は1戦1勝だったサトノアラジンが圧倒的1番人気に推されたものの3戦2勝だったイスラボニータが勝利し、4年前は札幌2歳Sを快勝していたコディーノがデビューからの連勝を3に伸ばして優勝した。

キャリアの浅い素質馬か、OPで好走している実績馬か。今年は出走頭数こそ10頭と少なかったが、実績馬は結構いた。サウジアラビアRCを差し切ったブレスジャーニー札幌2歳Sを逃げ切ったトラスト、そして、新潟2歳Sで②着まで追い込んだオーバースペックや2戦2勝で芙蓉Sを勝利したキングズラッシュもいた。

しかし、これらの実績馬よりも上位人気に推されたのは、1戦1勝で、今回唯一のディープインパクト産駒だったムーヴザワールドだった。この馬が1番人気で、前走で未勝利戦を勝ち上がったスワーヴリチャードも4番人気に支持された。

ムーヴザワールドスワーヴリチャードノーザンファームの生産で、同牧場の生産馬では他にキングズラッシュエルデュクラージュもいた。エルデュクラージュダート1800mの新馬戦を快勝した馬で、鞍上がムーア騎手というのも影響したのかもしれないが、オーバースペック(7番人気)よりも上位の人気(6番人気)だったことには驚いた。ノーザンファームの生産馬には歯向かうな、という空気が充満しているのか……。

レースは、直線半ばでトラストを交わしてスワーヴリチャードが先頭に立ち、同馬を外からブレスジャーニーが差し切って重賞連勝を果たした。ムーヴザワールドは勝ち馬からクビ差+ハナ差の③着までで、上位3頭から2馬身以上離れた④着がキングズラッシュだった。

今年は実績馬素質馬たちを破った格好になったが、経験値の差が勝敗を分けた印象も受けた。

ムーヴザワールドスワーヴリチャードは1勝馬であるばかりでなく、過去のレースがいずれも阪神で、左回りや東京への遠征が初めてだった。ムーヴザワールドは道悪馬場も初めてで、血統的には問題なかったのだろうが、未知な部分はあったのだろう。

キングズラッシュは関東馬なので輸送距離が極端に長くなったわけではないが、やはり左回りは初めてで、直線距離の長いコースも初。トラストも直線距離の長いコースが初めてで、今回は2ヶ月半の休み明けでもあった。

ブレスジャーニー芝1800mが初めてではあったが、過去3戦がいずれも東京競馬場で、連勝を飾っていた近2走が稍重馬場だったから降雨で馬場が渋ったのも好都合だったのだろう。前走のサウジアラビアRCは3ヶ月半の休み明けだったが、今回は中5週で、前走時とほとんど同じ末脚を繰り出した(上がり3Fは前走が33秒8、今回が33秒7)。「勝手知ったる自分の庭」というレースぶりだった。

曾祖母ダイナカールから受け継ぐ末脚は一級品で、今後は右回りのレースを使われる時がひとつの試金石になるのだろう。450kgを切る牡馬にしては小柄なタイプでもあるので、関西圏でのレースとなった際には輸送もポイントになってくるのかもしれない。

ちなみに、ブレスジャーニーは昨年の北海道サマーセールで取引価格250万円だった馬。一方、②着のスワーヴリチャードは一昨年のセクレクトセールで1億5500万円で取り引きされた馬で、③着のムーヴザワールドはサンデーサラブレッドクラブで総額1億5000万円で募集された馬だ。今回の結果を痛快に感じる人もいるかと思うが、果たして今後はどのような結末が待っているだろうか。

サトノアラジンが1番人気で⑤着に敗れた2013年は⑥着がワンアンドオンリーで、両馬の例を出すまでもないだろうが、今回のスワーヴリチャードムーヴザワールドは、経験値を積んだと見れば何も悲観することはないだろう。ただ、来春のG1戦線に余裕を持って出走するには収得賞金が重要で、次走以降には経験だけでなく結果も求められそうだ。

経験値の観点に立てば、トラストにも収穫があったと見るべきだろう。今回は10頭立てでの稍重馬場で、それを考えれば、1000m通過が60秒6というのは淀みなく流れた部類に入りそうだ。それでもトラストは2ヶ月半ぶりで2番手に控える形で行きたがる感じになっていて、やはり間隔がある程度詰まった時に逃げる形が現状ではベストなのだろう。

トラストは、父スクリーンヒーロー×母父エイシンサンディ×母母父メジロティターン×母母母父ハギノカムイオーという配合で、父と母母父はスタミナもあり、母父と母母母父はスピードに富む印象がある。現時点ではスピード面が勝っている印象だから、これからはメジロティターンの血がむくむくと覚醒してくることを期待したい。