天才肌の一族から出た、遅咲きの叩き上げ
文/編集部(T)、写真/稲葉訓也
出走予定馬の血統表を眺めていて、
「いよいよそういう時代になったのかあ……」という感想を抱いた。
というのも、出走馬18頭を集めた今年の
京阪杯だが、
サクラバクシンオー産駒がいない。それどころか母父を含め、血統表内に
サクラバクシンオーを持つ馬が1頭もいなかった(その父
サクラユタカオーを持つ
アースソニックはいたが)。
それだけ?と思う方もいるかもしれないが、
これがけっこう珍しい。調べてみると、芝1200mの古馬混合重賞で、父か母父に
サクラバクシンオーを持つ馬が1頭も出なかったのは
11年函館スプリントS以来のことだった。ちなみに、芝1200mでの施行となった
06年以降の京阪杯では初めてのことになる。
すでに亡くなったが、今年もスプリント路線を賑わせる
ビッグアーサーを出して存在感を見せている
サクラバクシンオー。それがいない今年の
京阪杯がどのような結果になるのか興味深く見ていたが、やはり
“血”の持つ力は無視できないんだなあ……と感じる結果になった。
レースはダッシュ良く先頭を窺う
セカンドテーブルに対して
ネロは押して押して追いかけ、序盤でハナを奪う。2頭が競り合ったこともあって
重馬場での600m通過は34秒1となったが、良馬場だった昨年のそれが34秒0だから、
なかなかのペースとなった。
こんなペースで行って大丈夫なのかと思いきや、
ネロの脚色は勝負所を過ぎて直線に入っても衰えるどころか、逆に後続を突き放していく。直線半ばで完全にセーフティリードをとり、②着
エイシンスパルタン、大接戦となった③着争い(
フミノムーンと
アースソニックが同着)を尻目に、悠々とゴールを駆け抜けた。
ネロは重賞未勝利馬だったが、OP特別3勝、重賞②着は2回あるために今回の斤量は57kg。さらにこのペースで行って4馬身差の完勝だから、これは能力と馬場適性が噛み合った結果ということなのだろう。これで
道悪芝は6戦して4勝。今後も馬場が渋れば特に面白い存在となりそうだ。
ネロの血統を見返すと、自分の世代には引っ掛かる名前が見える。母の母が
デュプリシトといえば、ピンとくる方もいるのではないだろうか。その産駒には
ニシノフラワーがいて、
ネロはその甥にあたる。
ニシノフラワーといえば現調教師の
河内洋騎手を背に
桜花賞を制した馬だが、個人的に最適距離だったと思うのは芝1200mで、
もっとも強いレースをしたのは3歳時の92年スプリンターズSだと思っている。
その
ニシノフラワー、前走の
エリザベス女王杯(当時は3歳限定で、京都芝2400mで行われた)で③着に入りながら、その次走で半分の距離となる
スプリンターズSを選択。この臨戦過程も面白いのだが、レースぶりもまた凄かった。同世代の
サクラバクシンオーが快足を飛ばしてハナに立つ中、
ニシノフラワーはさすがに前半は置かれて後方となったが、直線で猛然と追い込み、先に抜け出した同年の
安田記念勝ち馬
ヤマニンゼファーをクビ差差し切ってしまったのだ。
結局、
ニシノフラワーは翌年の
スプリンターズSでは本格化した
サクラバクシンオーの後塵を拝したが、0秒5差の③着に入って芝1200mは①①③着という成績での引退となった。当時は芝1200mのG1が
スプリンターズSしかなかった時代だが、今ならどうだっただろうか、と思わせる活躍ぶりだった。
ネロの父は2歳時に芝1200mのG1を3勝した
ヨハネスブルグで、母は2歳時の
ファンタジーSで③着に入った
ニシノタカラヅカ。早くから能力を発揮し、いわば
“天才肌”の一族の出身であった
ネロが5歳にして
9回目の挑戦で初重賞制覇というのも、血統の面白さだろうか。
ネロ自身は、初めてのG1挑戦となった今年の
スプリンターズSで0秒1差⑥着と悪くない内容だった。遅咲きで叩き上げの
ネロだけに、今後もまだまだ成長が期待できるはず。今後も楽しみにしたい。