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アルバートも存分に活躍ができる番組づくりを切に望む!
文/出川塁、写真/森鷹史


中央競馬の平地競走最長距離レースとしてお馴染みのステイヤーズS。今年は単勝1.3倍の圧倒的な1番人気に推されたアルバートが、その期待に応えて史上5頭目となる連覇を飾った。

スタートから1周目が終わるまでは淡々とした流れ。隊列が決まったあとは馬順の入れ替わりもなく、マラソンレースらしい我慢比べの展開かと思われた。そこに変化を加えたのが、離れた最後方にいたはずのサイモントルナーレ。2周目の1コーナーを過ぎたところで大外を通ってグングン上昇し、一気に先頭にまで立ってしまう。

長距離戦を勝つにはぶれない精神力を持っていることも重要だ。他馬の動きにつられて無駄に体力を消耗するようではステイヤーとはいえない。果敢に動いたサイモントルナーレのような馬がいれば、そうした側面をより問われるレースになる。結局、最終コーナーを待たずに失速し、大差のシンガリ負けを喫することになるのだが、レースの盛り上げには大きく貢献した。自転車のツール・ド・フランスのような敢闘賞の制度が競馬にもあれば、この10歳馬が獲得したのは間違いないだろう。

そしてレースは最後の直線へ入り、最初に馬群を抜け出したのはファタモルガーナ。過去にこのレースで②着2回、通算4度目の出走となる8歳馬は脚色もよく、ついに勝利なるかとも思われた。しかし、そこで襲いかかったのが、終始インコースで息を潜めていたライアン・ムーア騎手アルバートだった。世界屈指のジョッキーと現役屈指の長距離馬にまったくロスなく乗られては為す術なく、ゴール板ではきっちり先頭が入れ替わっていた。

ちなみに、ファタモルガーナが②着に入ったときの勝ち馬は、12年がトウカイトリック、14年がデスペラード、今年はアルバートとなっている。この3頭の名前を見ると、ステイヤーズSというレースの本質がたちどころにわかるような気がする。

さて、来年のアルバートの目標は史上初のステイヤーズS3連覇もあるだろうが、まずは天皇賞・春だ。しかし、この馬のような純粋な長距離馬にとって、古馬唯一の3000m級G1は開催時期に問題があるといわざるをえない。年間を通じて屈指の高速馬場となる春の京都2週目に行なわれるため、好走するためには速い上がりを繰り出すのが必須。スタミナ自慢のステイヤーにとって、これは専門外の適性である。このカレンダーを見たアルバートは、思わずため息をついてしまうかもしれない。

海外トップクラスのG1でも互角以上に戦えるようになった日本馬だが、その一方で、ここにきてスタミナ面の弱点が顕になってきた印象も強い。ヨーロッパのなかでも特にスタミナを要求されるイギリスのG1を勝った内国産馬はいない。緩みのないタフな流れになった今年の凱旋門賞でも、ダービー馬マカヒキが⑭着という厳しい結果に終わった。

日本馬に足りないスタミナを育んでいくうえで、国内の長距離戦はもっと大事にされるべきだ。そう考えたとき、天皇賞・春菊花賞がどちらも京都開催というのは適切なのか。中央4場でもっとも馬場の軽い京都で行なわれる3000m級のG1が、スタミナ検定競走としての役割を果たすことができるのか。天皇賞・春の距離短縮に関しては俎上に上がることが多いが、もっと様々な角度から議論されていいように思う。

ここで唐突に自説を述べてみると、天皇賞・春を2400mに短縮し、中山か阪神で古馬の3000m級G1を新設する、というのが出川案である。春に2400mのG1を設けることで一流馬の海外流出を防ぎ、3000m級のG1を急坂コースで行なうことでスタミナ検定の意味を強くする。誰も褒めてくれないので自分で褒めてみましたってやつだが、実に妙案ではないか。もちろん、大阪杯がG1に昇格する今となっては現実味に乏しいことはわかっている。

柄にもなく提言めいたことを書いてしまった。それもこれも、アルバートのような馬がステイヤーズSを目指すぐらいしか目標がない現状を見るにつけ、やむにやまれずといった次第である。いちばん好きなG1は菊花賞という長距離戦愛好家として、ステイヤーも存分に活躍ができる番組づくりを切に望む