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ウオッカ、ブエナビスタにも比肩する素質馬、目指すところは国内に留まらない!?
文/吉田竜作(大阪スポーツ)、写真/川井博


07年ウオッカが牡馬を破って日本ダービーを制した。そして、それに続くように出てきたブエナビスタ。周囲の期待は大きく、どことなく松田博調教師(当時)の耳にも「牡馬への挑戦しないのか」という声が耳に入ってきた。

「ダービーで一緒に走っていたら? 走ってないからわからんさ」と煙にまきつつも、「まあ五分にはやれるだろうな」。自信はあったのだろう。ただ、「牝馬のレースがあるんだから牝馬のレースを使えばいい。長い目で見たら牡馬を負かしていいこともない」とも言っていた。

牝馬よりも弱い牡馬というレッテルが貼られてしまうと、当然、種牡馬候補とはいかなくなる。となると、日本の競馬にぽっかりと穴が空いてしまう…そして、この日、その可能性を強く感じさせる事態が起きた。超良血馬ソウルスターリング阪神JFを制したのだ。

②着のリスグラシューは大外枠の不利もあってか、距離のロスを強いられた。それでもなお、直線で坂を駆け上がってからの伸び脚は際立つものだった。これが普通の年ならば「来春のクラシックでは逆転を」となるところだろう。しかし、そんな淡い期待を完璧に封じたのが今回のソウルスターリングが見せた走りではなかったか。

好スタートを決めると、馬群の内側でルメールがパートナーの動きに合わせて、リズムよく走らせる。手綱を引くでもなく馬首を押すでもなく…人馬一体という言葉がピタリと当てはまるようなコンビの動き。

3コーナーを過ぎてポジションが3番手に上がったが、これも決して無理をしたわけでない。あくまでルメールソウルスターリングの大きな走りを維持していただけ。他馬が勝負どころのスピードについていけなくなり、自然と位置取りが上がっただけのことだ。

直線に向いてからもほとんどノーアクション。前が開いても慌てることもなく、ただ淡々と完歩を刻んで行く。坂を登ったところで外の馬の動きも目に入ったのだろう。少し馬首を押して促すと、実に滑らかに加速。完全に抜け切って1頭になると、ターフビジョンが目に入ったか頭を上げる。ここでルメールが最初で最後のステッキ。すると、再び首を下げて加速体勢に。ゴール前ではリスグラシューが詰め寄ったが、その時に内の白い帽子の漆黒の怪物はほとんど流し気味。着差は1馬身1/4だったが、残酷なまでに力の差があったといわざるを得ない。

「スタセリタにはフランスにいた時に乗っていた。(フランス)オークスも勝った。きょうはスペシャルな日」といつもは冷静なルメールもさすがに感情をあらわにした。縁合ってフランスから日本へやってきたのはソウルスターリング母スタセリタルメールも共通するところ。出生地からは遠い異国でトップを目指す――そうしたところに共鳴するところがあったのだろう。

共同会見では日本語への変換がうまくいかなかったようだが、セールスポイントを聴かれるとすぐに言葉が突いて出た。「跳びが大きくて、スピードもスタミナもある。チャンピオンになれる…かもしれないね」

偉大な母の感触と、世界的に猛威を奮うフランケルのDNAをすでにルメールは自分のモノとしているからこそ、スラスラと日本語で答えることができたのだろう。世界的な活躍を見せた名牝歴史を塗り変えてしまいそうな怪物との結晶は、おそらく来春の話題をさらって行くことだろう。

そして、この言い回しでもあくまで控えめ。冒頭にあげたウオッカ、ブエナビスタにも比肩する素質を秘めているだろうし、陣営が目指すところも国内に留まることはないだろう。凱旋門賞といったレースも当然ターゲットに入ってくるはずだ。

これでソウルスターリング最優秀2歳牝馬に一歩近づいた。本来なら「確定」と書きたいところだが、ご存知のとおり、次週の朝日杯FSには同じフランケル産駒ミスエルテが参戦を予定。それもただ出走するだけではない。おそらくは1番人気に推されることだろう。

そして、このミスエルテの方も今さらその実力を説明するまでもないだろう。こちらも確実にフランケルのDNAを引き継ぎ、性別の差をソウルスターリング同様に越えるスケールを持つ。もし、このレースを勝ってしまうと賞レースの行方も難しくなる上に、冒頭で触れたとおり、この世代の牡馬の雲行きが怪しくなってしまう。大局的な見方をすれば牡馬の奮起を願いたいところだが…果たしてどうなるだろうか。