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マジックタイムとはなんとふさわしい名前だろう
文/出川塁、写真/森鷹史


昨年、重賞に格上げされた第1回ターコイズSは、11→16→15番人気で決まる大波乱となった。シーズン末の牝馬限定ハンデ重賞なら荒れるのは自然の理、今年もいっちょ大穴を狙おうかと、などは先週日曜に特別登録が出揃った段階から早くも色めき立っていた。

レースが終わったいま、さすがに虫がよすぎたと大いに反省している。第2回の今年は、1番人気→唯一のG1勝ち馬→唯一のG2勝ち馬での決着。先週の阪神JFのように1~3番人気がそのまま①~③着を占めたわけではないにしても、これはこれで極めて真っ当な結果となった。

①着に入った1番人気というのはマジックタイム。前走のマイルCSは⑧着に敗れたものの、今回はダービー卿CTでロゴタイプやサトノアラジンなどの強豪牡馬を撃破した舞台である。その後も実績を重ねてハンデは当時より3キロ重い56キロとなっても、牝馬同士のここは負けられないところ。本命視されるのは当然だった。

スタートは五分。ただし、ハイペースとみた鞍上のクリストフ・ルメール騎手はポジション争いに加わらず、行く気に任せたレースを選択する。結果、最初のコーナーとなった2角は後ろから2頭目の15番手。向こう正面から3コーナーにかけて2頭ほどかわし、13番手で最終4コーナーを回る。

この時点で馬群の真っ只中。さあ前が開くかどうかというところだが、果たして、絶好調のルメール騎手に迷いは露ほどもなかった。脚色よく抜け出しにかかったウキヨノカゼの後ろを確保したことで、いとも簡単に視界が開く。ただでさえ脚力に勝る1番人気馬が、ここに至るまで無駄な脚をまったく使っていないのだから、あとはもう突き抜けるだけだった。

レース後に「とてもリラックスして走っていました」マジックタイムを称えたルメール騎手。だが、本当にリラックスしていたのは当の本人ではなかったか。

戸崎圭太騎手との熾烈なリーディング争いを繰り広げている最中で、①着は喉から手が出るほど欲しいはず。なのに勝ちを急ぐ素振りさえ見せない、落ち着き払った騎乗だった。圧倒的1番人気のメジャーエンブレムで④着に敗れた桜花賞の頃など、騎乗が消極的といった声も聞こえたものだが、いまやそんな指摘をする人はどこにもいないだろう。

話をマジックタイムに戻す。このターコイズSの走りを見る限り、晩成傾向のあるハーツクライ産駒らしく5歳12月にしていよいよ充実期に入った印象が強い。全6勝を芝のマイル戦で挙げており、現役を続ければ来年のヴィクトリアマイルでも間違いなく有望な存在となる。

残念ながら、クラブの規定によって6歳3月までには引退、繁殖入りが決まっており、それは叶わない。もったいない気はするが、余力を残した状態で次の大きな仕事に入ることは悪いことではない。それにしても馬名の由来は「日が沈んで空が青く綺麗な数分間のこと」だそうで、引退を前にマジックタイムを迎えたこの馬に、なんとふさわしい名前だろうか。

②着に入った唯一のG1馬というのはレッツゴードンキ。しかし、この馬がシンガリから上がり1位の脚を繰り出してくるとは驚いた。逃げ切った昨年の桜花賞以降は勝利から遠ざかっているものの、ここにきて差す競馬が板につきつつあり、ようやく復調してきた。初ダートとなった前走のJBCレディスクラシックでも②着に入っており、来年は芝ダート兼用で久しぶりの勝利を目指したい。

③着に入った唯一のG2馬というのはカフェブリリアント。この馬はここで引退と伝えられている。最内の1枠1番から直線ではなかなか前が開かず、いささか悔いが残るレースとなってしまった感もあるが、力があるところは見せた。

最後に、2番人気に推された3歳馬のアットザシーサイドは⑥着まで。差し馬が上位を占める展開は悪くなかったが、4角で大外をブン回してかなりのコースロスがあった。戦績が示すように1400mベストの馬で、マイルは微妙に距離が長いと思われるだけになおさら響いたはずだ。距離短縮で見直したい。