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どこまでも「復権」だらけな朝日杯FSだった
文/安福良直、写真/森鷹史


このところのG1戦線は、ディープ軍団が中心を走り、そこにキンカメ軍団その他サンデー系軍団がどう絡むか、という構図が続いていたが、そこに現れたのがフランケル産駒。今のところ日本ではソウルスターリングとミスエルテの牝馬2頭だけが勝っているが、その2頭でもうインパクト大。

今までのサドラーズウェルズ系に見られたような重々しさを素軽さで打ち消し、さすがは21世紀の世界最強馬の産駒と思わせる走り。さっそく先週の阪神JFでソウルスターリングが勝ち、今週はミスエルテが牡馬相手のこちらに挑戦。

これで勝ったら、本当に血統地図が変わるか、と思われるところだったが、さすがにそううまくは行かなかった。

ミスエルテは好位の外めを馬群に包まれないようにうまく追走したが、直線で伸びきれず④着。ところでミスエルテ阪神JFではなく、牡馬相手のこちらに挑んだ理由はいくつかあるだろう。

テンションが高めなミスエルテにとっては、レース間隔をゆったり取ることができるのはいいことだろうし、速い流れで折り合いをつけやすいのも好都合。あとは相手関係。このあたりを考えての朝日杯挑戦だったと思われるが、誤算は道中のペース配分か。

タガノアシュラトラストがいるからハイペース必死と思いきや、前半4ハロンは48秒3とスロー。しかも4ハロン目で12秒7とガクンとペースが落ちる変則的な流れ。先週の阪神JFは前半4ハロンが46秒7で途中の落ち込みもさほどではなく、ミスエルテにとっては先週の方がレースしやすかっただろう。

それでも、今日の流れで折り合いを欠くこともなく、直線でもそれなりに伸びていたので、悲観するような内容ではなかった。いずれ来るはずのソウルスターリングとの対決の日に、今日の経験が糧になることを望みたい。

このペース変動の激しい流れを主導したボンセルヴィーソが、12番人気で③着と好走。ミスエルテの追撃を封じ込めたのだから大健闘。馬も頑張ったが、ここは松山騎手巧みなペース配分を褒めるべきだろう。来年はG1で大仕事をやってのけると思いたいですね。

さて、そんな流れの中、勝ったのは結局これまでの主役ディープ産駒サトノアレス。新しい時代が来るかと思わせておいて、やっぱり…、というのがディープ産駒の強いところ。特に今年の2歳戦線で、ディープ産駒たちは例年よりも勝ち上がりが鈍く、オープン入りする馬も少なかったのだが、G1シーズンが来るとあっという間に巻き返しますね。

今日のサトノアレスは、パドックで好気配だったし、500キロの恵まれた馬体で大物感も文句なし。勝たれてみれば納得の強さだったが、特に目を引いたのが、4コーナーを回ってからの脚色。衰えることなく、前を行くミスエルテを一瞬で突き放していったところがすごかった。最後はモンドキャンノに半馬身差まで迫られたが、並ばれればまだまだ伸びるぞ、という脚を見せていたので、着差以上の楽勝と言っていいだろう。

藤沢和厩舎は、先週のソウルスターリングに続いて2週連続のG1制覇。2歳の牡牝両方勝つ、というのは素晴らしいですね。四位騎手ともども、最近しばらくG1を勝っていなかっただけに、これは嬉しい復権だ。結局、今日の朝日杯FSを一語で総括すると、「復権」ということになるのですね。

勝ったサトノアレスに最後まで迫ったモンドキャンノの脚も見どころがあった。こちらはこれまで1200~1400mしか走ったことがなく、キンシャサノキセキサクラバクシンオーのスプリンター血統で初めての1600mはどうかと思われたが、問題なかった。

ただ、勝ったサトノアレスもそうだったが、変則的なペースの中、馬群の後方でのんびり追走していたのがプラスに働いた面はあるので、毎回同じように活躍できるかと言われると、まだ何とも言えない。逆に、3番人気のクリアザトラックなどは流れに翻弄されて力を出し切れなかった感じなので、次もし人気が落ちていれば大きく狙っていいのでは。

つまり、今日のテーマは「復権」だったが、今日負けた馬たちが「復権」する日にも注目したいという、どこまでも「復権」だらけな朝日杯FSであった。若い馬たちのレースなので、そういうことでいいだろう。