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災い(出遅れ)転じて福となす、1400mも主戦場に
文/浅田知広、写真/森鷹史


翌日に行われる2歳G2・ホープフルSがG1昇格を申請しているが、古馬・芝1400mの「ほぼG1級」のレースがこの阪神C。残念ながら(?)昨年、札幌記念と並ぶ①着賞金G2トップからは陥落してしまったものの、実績で負担重量が変わらない定量戦という、G1並みの条件はそのまま維持している。

その阪神Cに、今年は初めて「前走G1」優勝馬ミッキーアイルが出走して1番人気に。そして2番人気には一昨年の皐月賞馬イスラボニータと、この2頭だけでも「豪華メンバー」と言えるようなレースとなった。

そして3番人気は昨年の覇者ロサギガンティア。09~10年のキンシャサノキセキ、11~12年のサンカルロ、13~14年のリアルインパクトと連覇が続くだけに当然今年も、人気上位2頭を差し置いて、ロサギガンティア連覇という可能性も十分だ。

さらに昨年②着のダンスディレクターなど伏兵陣も多彩。単勝オッズが10倍を切っていたのはミッキーアイル(2.1倍)、イスラボニータ(3.8倍)の2頭だけと2強ムードながら、このレースは定量戦のわりには荒れる傾向で(まあG1も荒れるときは荒れるが)、1番人気は6連敗中、2番人気も過去10年[1.0.1.8]。実績や人気など関係なく、この舞台でこそ輝く馬の出番も大いにある。

スタートは2強の一角、イスラボニータが躓きかけて後方からという波乱。ミッキーアイルは好ダッシュから楽に先手を奪い、この時点でミッキーアイルがかなり優位にレースを運べるかと思われた。

しかし、レース前にあったもうひとつの波乱が、結果を左右することになった。その波乱とは、イスラボニータのすぐ外、7番枠のラインハートが他馬に蹴られて競走除外になっていたことだ。地方競馬では発走直前の除外でも、いなくなった分の枠を詰める作業を目にすることがあるが、今回、イスラボニータの隣は「空き」のままだった。

その結果と言っていいのかどうか、出遅れ気味だったイスラボニータはすぐに包まれることもなく、100mほどで好位を確保。その勢いのままさらに前へと進出し、スタートから15秒で、もうミッキーアイルの直後、2番手につけていたのだ。

強敵にここまでガッチリとマークされては、さすがのミッキーアイルも楽ではない。3~4コーナー中間では早くも外からイスラボニータが鼻面をちらちらのぞかせ、いつでも捕らえられますよ、と言わんばかり。直線に向いてすぐ追い出されたミッキーアイルに対し、イスラボニータは馬なりの手応えで、この時点で「2頭の勝負」は決していた。

残り300mを切ってイスラボニータが抜け出しにかかると、外からはダンスディレクターフィエロの好位勢が追ってきたが、イスラボニータとの差を急激に詰めるほどの脚はなし。そのままイスラボニータが押し切って、14年セントライト記念以来の重賞制覇……かと思われた。

ところが。ダンスディレクターフィエロの間を突いて差してきた馬が1頭。「え、シュウジ!?」スプリンターズSでは向正面4番手から少々掛かり気味に2番手まで上がり、ミッキーアイルを追いかけていった馬である。当然今回も、事前にはそんなレース運びが予想されたが、この馬も実は出遅れ気味だった。すぐに巻き返していったものの、こちらは両隣に馬がいた上に1枠2番の内枠で、イスラボニータと違って前は開いていなかった。

終わってみれば、そこでうまく脚を溜められたことが、これまで見せていなかった新たな一面を引き出すことに繋がった。直線半ばまではモタモタしていたものの、ラスト1ハロン12秒5とイスラボニータが止まりかけたところで、シュウジは強烈な脚を繰り出し一気に差し切ってみせたのだ。

もしラインハートが除外になっていなければ、イスラボニータも包まれて、最後に差し切っていた可能性もある一方、ミッキーアイルにとっては楽な展開で逃げ切っていた可能性もあるだろう。そんな仮定の話はさておき、現実の「ラインハートが除外になった阪神C」は、シュウジの「差し切り」という予想外の結末となった。

シュウジ父キンシャサノキセキは芝1200mの新馬と1600mのジュニアCを連勝したが、後にこの阪神C高松宮記念連覇と1200~1400mを主戦場とした。そしてシュウジは昨夏、1400mの新馬戦、1600mの中京2歳S、そして1200mの小倉2歳Sと3連勝。その後の成績からは1200m専門になりかけたが、この一戦が「災い(出遅れ)転じて福となす」で、この1400mも主戦場ということになりそうだ。なにせ父は7~8歳時に高松宮記念連覇しただけに、この馬も長きにわたって我々を楽しませてくれることを期待したい。