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今年は強い馬が強い競馬をしたグランプリ
文/山本武志(スポーツ報知)、写真/川井博


今年の有馬記念を見た直後、いつもより冷静にレースを振り返る自分がいた。後で触れるが、自分の予想&馬券が完敗だったからというわけではない。どう考えても行き着く結論はひとつで「強い馬がうまい競馬をすれば、堅い競馬になるよな」ってこと。

番手からの競馬にもしっかり対応して、一度は完全に抜け出したキタサンブラック=武豊騎手の手綱さばきも光ったが、サトノダイヤモンド=ルメール騎手完璧なレース運びがそれを上回った。

各ジョッキーには得意の「型」があると個人的に思っている。例えばM.デムーロ騎手は直線で抜け出した馬にターゲットを絞った時の差し競馬ではより頼もしく見えるし、武豊騎手は差し馬をスムーズに外へ持ち出した時にはどこまでも伸びていくような感覚を覚える。浜中騎手岩田騎手、最近はムーア騎手が内枠に入った時は人気薄でも何となく押さえたい。

そんな中でルメール騎手といえば、好位からソツのない立ち回りが真っ先に頭に思い浮かんだ。阪神JFのソウルスターリングなどは最たるものだが、逃げ馬のペース、動きを後ろで見ながら、抜群のタイミングで追い出し、トップスピードでゴール板を駆け抜ける。これがルメール騎手の必勝パターンのひとつだろう。

この日のサトノダイヤモンドは正面スタンド前でいつものように中団からの追走。しかし、向こう正面に入る時にはキタサンブラックの直後、3番手につけていたから驚いた。キタサンブラックを意識しつつも、決して仕掛けたわけでもなく、馬任せでポジションを上げていったのはさすがのひと言。この動きが今日のポイントであったことは間違いない。

あとは道中で適度にタメを利かせながらも、勝負どころでジワッと進出を開始。最後も測ったように差し切ったゴールまで、今年のグランプリはルメール騎手が「支配」していたレースと言える。

池江厩舎はこれで有馬記念4勝目。この中間、池江調教師は11年に3歳馬でこのレースを勝ったオルフェーヴルを思い出しながら、サトノダイヤモンドを語ったことがある。「オルフェーヴルは危うさも持っていたが、突き抜けたような部分があった。ダイヤモンドはずっと全体的に底上げしている感じだが、まとまりすぎかなという気もする。自分がオルフェの幻影を追い求めているだけもしれないけど…」

池江調教師が「破天荒」と称したオルフェーヴルは、人間で言えば常識の範ちゅうでは考えづらい「天才」型だった。一方、サトノダイヤモンドは自らの考えたローテを忠実に歩き、思い描いたように状態面も大一番へ向けて上げていく「優等生」だ。

見た目に派手さがなく、秋も菊花賞こそ完勝だったが、神戸新聞杯もこの日もクビ差の勝利。しかし、惜敗続きだった春と違った結果を残せたことが、この馬としての「成長」そのもの。タイプはまるで違うが、偉大な先輩が3年前に引退した場所で、ようやく池江厩舎に正式な「後継馬」が誕生したような気がする。

ただ、②着だったキタサンブラックも相手に完璧なレースをされただけ。決して悲観するような内容ではない。4角手前でサトノノブレスなどが動いてきたため、早めに前のマルターズアポジーをとらえにいきながらも最後の最後まで踏ん張った。今年は常に人気を背負い、目標にされやすくなったぶん、先行馬にとって楽ではなかったはずだが、6戦3勝、2着2回、3着1回の複勝率10割はすごいのひと言だ。

そして、ジャパンCの時にも書いた本命のシュヴァルグランは⑥着。4コーナー手前から動いていき、勝負に出た福永の騎乗は納得できるもので、今回は力負けだったと思う。レース直後は道中がもう少し流れてくれればという気持ちも多少はあった。しかし、サトノダイヤモンドは自在な立ち回りで勝利をつかみ、逃げなかったキタサンブラックも自分のリズムを守り抜き、②着と崩れなかった。

展開に敗因を求めれば求めるほど、上位2頭の強さが浮き彫りになっていくだけ。最初にも書いたが、今年は強い馬が強い競馬をしたグランプリということで記憶にとどめたいと思う。