2014年の時のようなハーツクライ産駒の旋風が起こる可能性も?
文/編集部(M)、写真/川井博
今年の
共同通信杯は4頭(
ムーヴザワールド、
スワーヴリチャード、
エアウィンザー、
タイセイスターリー)の人気が抜ける形になった。この4頭はいずれも
社台グループの生産馬で、
重賞で活躍する馬の弟だった。
ムーヴザワールドは
ローズS勝ちや
エリザベス女王杯③着の実績がある
タッチングスピーチの全弟で、
スワーヴリチャードは
きさらぎ賞②着の
バンドワゴンの半弟。
エアウィンザーはご存知
エアスピネルの全弟で、
タイセイスターリーはG1・2勝の
ミッキーアイルの半弟だ。
3歳2月で、その個性がいまいちはっきりとしていないからか、この4頭は、それぞれの
兄姉のレースぶりから今回のレースへの適性を推察される報道が見られた。
例えば、
タイセイスターリーは兄の
ミッキーアイルの活躍距離が1600m以下だったので、
1800mに距離が延びる点がマイナスではないか?というもの。
スワーヴリチャードは、兄の
バンドワゴンとは脚質が真逆ではあるものの、大型馬で
力を要する馬場の方が良いのではないか? タッチングスピーチはこれまでの3勝を良馬場で挙げていて、弟の
ムーヴザワールドも
決め手が活きる馬場が合うのではないか? といった見解も目にした。
ただ、当たり前の話だけれど、同じ血統でも
性格や
適性が異なるケースは多々あり、今回のレースぶりを見ると、この4頭も、兄姉とは少しずつ違う面があるのではないかと思う。
スワーヴリチャードの兄
バンドワゴンは逃げて4連対を記録しているが、弟は
控える競馬で結果を残している。デビューから手綱を握る
四位騎手がレースを教え込んできている印象で、前走の
東スポ杯2歳Sでは外から早めに進出して最後に交わされてしまったが、今回は内目で脚を溜め、手応え良く進出して抜け出した。
兄
バンドワゴンは
ホワイトマズル産駒で、脚質的には
菊花賞を制した
アサクサキングスに似たタイプだろう。一方、弟の
スワーヴリチャードは
ハーツクライ産駒で、同産駒らしい末脚に磨きがかかってきている。
ハーツクライ産駒の中には、本格化するまでは
もどかしいレースをするタイプがいるが、今回の走りっぷりを見ると、この馬はすでに
一皮むけた印象を受ける。
スワーヴリチャードだけでなく、土曜日の
クイーンCを制した
アドマイヤミヤビも、
阪神JFで②着となった
リスグラシューも、これまでの
ハーツクライ産駒とは違って
完成度がとても早い。
芝重賞を制した
ハーツクライ産駒はこれで21頭目で、
G1ホースは
ジャスタウェイ、
ワンアンドオンリー、
ヌーヴォレコルトといるが、この3頭はいずれもデビューして3戦目以内に
④着以下を記録していた。
他の重賞勝ち馬を見ても、デビューから連続好走をしたタイプは少なく、4戦連続で③着以内に入っていたのは、現4歳世代以上に限ると、
カポーティスター、
シュヴァルグラン、
ツルマルレオン、
メイショウナルトの4頭だけ。この4頭も、
馬券圏外を何度か経験した後に
初重賞制覇を果たしている。
それらとは対照的に、
スワーヴリチャードは今回で[2.2.0.0]という成績だし、
リスグラシューも[2.2.0.0]で重賞勝利をしていて、
アドマイヤミヤビも[3.1.0.0]という成績だ。現3歳の
ハーツクライ産駒は完成度が早く、ポンポンと
重賞を勝っている。
現3歳世代は
2013年に配合され、
2014年に生まれた馬たちだ。
2013年と言えば
ジャスタウェイが
天皇賞・秋を圧勝した年で、
2014年は
ヌーヴォレコルトが
オークスを制し、
ダービーを
ワンアンドオンリーが勝利した年(
ジャスタウェイが
ドバイDFと
安田記念も制した)。つまり、現3歳世代は、
ハーツクライ産駒のG1馬が誕生した後に
競走馬としての教育を受けてきたことになる。
兄や姉と異なるどころか、同じ父でも
育成段階で違う教育をされてきた可能性もあり、それが開花してきたのかもしれない。今年の3歳クラシックでは、
2014年の時のようなハーツクライ産駒の旋風が起こる可能性も十分にあるだろう。
ムーヴザワールドは
ディープインパクト産駒で、同産駒は
共同通信杯を連勝していた(15年
リアルスティール、16年
ディーマジェスティ)から、この馬も直線で弾けるかと思われたが、意外にジリッぽくなってしまった。全姉の
タッチングスピーチは本格化したのが3歳夏~秋で、成長がやや遅い面があるのだろうか。
牝馬と
牡馬で、タイプが異なる面もあるのだろうか……。
ディープインパクト産駒は今週末の重賞に6頭が出走したが、
クイーンCでは
フローレスマジックが③着、
ハナレイムーンが⑤着、
共同通信杯では
ムーヴザワールドが③着、
京都記念では
スマートレイアーが②着、
マカヒキが③着、
ガリバルディが⑥着とワンパンチが利かなかった。これで
今年の芝重賞では[0.4.5.11]と勝ち馬が出ていない。
年初から
ディープインパクト産駒向きの馬場になっていないということもあるのかもしれないが、いずれにしても、
ムーヴザワールドにとっては春のクラシックを考えれば
痛い③着続きとなってしまった(重賞で賞金が加算されるのは②着まで)。今後の動向が気になる。
エアウィンザーは道中での行きっぷりが兄の
エアスピネルとは異なり、これまでの2000mでも促される面が見られていた。今回は調教を工夫され、シャドーロールを装着しての参戦となったが、直線に入って前がごちゃつき、開いてからも弾けるには至らなかった。
この馬も賞金を加算することが叶わず、3歳春のクラシックへ向かうには
ローテーションの難しさが出てきてしまった。2~3歳の重賞が増えたことによって、
賞金加算の重要性が増している。
タイセイスターリーは途中からハナに立つ競馬で粘りを見せたが、最後に交わされた。兄の
ミッキーアイルとは脚質が異なることの表れか、それとも兄と同様に距離適性が
1600m以下ということなのか。
マンハッタンカフェ産駒は、
ヒルノダムールなどの2000m以上を得意にするタイプがいる一方、
ジョーカプチーノなどのスピード型もいて、これまでの戦績を見ると、
タイセイスターリーは後者なのかもしれない。兄は5連勝でG1(
NHKマイルC)を制したが、この馬は
マンハッタンカフェの牡駒らしく、叩き上げの面がありそうだ。
近年の
共同通信杯は
皐月賞への登龍門のような位置になっていたが、今年はその役目を果たしつつ、クラシックやその他の路線への
分岐点になるのではないだろうか。②着以下の馬たちのレベルを云々と語るのは、
時期尚早という気がする。