陣営の判断、舞台設定、展開面が噛み合って大きな勝利を掴みとった
文/石田敏徳、写真/川井博
史上初の
JRA同一G1・3勝目に挑む
コパノリッキー、史上2頭目の
フェブラリーS連覇に挑む
モーニン、あるいは昨年の最優秀ダートホース・
サウンドトゥルーなどの「格上」といえる面々を抑え、最終的に1、2番人気に支持されたのはG1未勝利の2頭、
カフジテイクと
ゴールドドリームだった。
で、終わってみればその2頭が③①着を占め、
「過剰人気じゃないの?」と疑った
私のような穴党には手も足も出ない結果となった今年の
フェブラリーS。改めて、
「オッズは上手いなあ」と感じ入った次第だが、そんな個人的感想はともかく、早速、レースを振り返ってみよう。
ケイティブレイブ以外に確たる逃げ馬は見当たらず、それほど速いペースになるとは思えなかった今年のメンバー構成。しかしいざゲートが開くと
「スタートが決まればハナへ、と思っていました」という
インカンテーションの
藤岡康太騎手が大外枠から手綱を押して押して先手を主張し、これに
横山典弘騎手の
ニシケンモノノフが絡んだことでペースは予想外に速くなった。
前半600mの通過ラップ・34秒0は
レコードタイムで決着した昨年(重馬場=34秒1)をも上回る過去10年間では最速の数字。“標準的”と思えた馬場状態(良馬場)からすると、相当なハイペースで幕を開けたことがレースの最初のポイントとなった。
その後、隊列が定まった中盤に流れは少し落ち着いたものの、2番手に控えた
ニシケンモノノフ、離れた3番手につけた
コパノリッキーが前に並びかけていった残り600m地点から再びペースが上がる。
「ペースは絶対、速くなると思っていましたが、あまり揉まれたくなかったので“流れに乗せる”競馬をした」とは
武豊騎手の弁で、この
コパノリッキーをはじめとする好位勢が早めに仕掛け、終盤のラップが急激に速くなったことが2つめのポイントといえただろう。
ちなみに前半600mの34秒0、中盤400mの12秒2-12秒8に対し、上がり3ハロンの内訳は11秒8-12秒0-12秒3。序盤のハイラップに加え、終盤の入り口に“落差1秒”ものペースアップを余儀なくされたのだから、先行勢が苦しくなったのは当然か。
それでもいったんは後続を突き放し、大きな見せ場をつくった
ニシケンモノノフの敢闘は光ったが、残り200m地点で脚色が鈍ったところへ差しに構えていた
ベストウォーリアと
ゴールドドリーム、そして大外から
カフジテイクが襲いかかる。
なかでも力強い脚勢で伸びたのが
ゴールドドリーム。
「先頭に立ってから馬が物見をしてしまい、危なかった」(
M・デムーロ騎手)というゴール前では
ベストウォーリアに逆襲される場面もあったが、それだけに
着差(クビ)以上の強さを印象付ける勝利となった。
「道中はいい感じで運べましたし、直線でもスムーズに前が開いてくれた。交わせそうな勢いだったのですが、最後は勝ち馬と同じ脚色になってしまった」(
戸崎圭太騎手)という
ベストウォーリアは、自在に立ち回れる強みを存分に活かしながらも、パンチ力の差に泣いた格好。
一方、
「もう少し前の位置で運びたかったが、思うようなポジションを取れなかった。(勝負どころでも)外を回りすぎてしまいましたし……」(
津村明秀騎手)という
カフジテイクは、
ベストウォーリアとは好対照に
“非凡な爆発力を誇る反面、不器用”な弱みを露呈した。
そんな2頭に対し、決して器用なレースぶりではなかったものの、差し馬に向いた流れに上手に乗り、息の長い末脚を活かしきったのが
ゴールドドリームだった。スタートが決まらずに道中は中団馬群の後方を進み、3コーナーから外へ持ち出して徐々にポジションを上げていった
M・デムーロ騎手。内でソツなく立ち回った
ベストウォーリアに比べると少し大味な印象も受けた運びだが、
「スタートで出遅れ、向正面では引っ掛かり、直線ではまったく伸びてくれなかった」という前走の
チャンピオンズC(⑫着)とは一転、人馬の呼吸はピッタリと合っていた。
平田修調教師によるとその
チャンピオンズCは、
「武蔵野S(②着)から中2週のレース間隔で、馬のテンションが高くなっていた」のが響いた面もあるという。そのことも踏まえて今回は敢えて“ぶっつけ”のローテーションを選択。パドックでは盛んにチャカついており、決して落ち着いてはいなかったものの、騎手が跨ってからは
「前回と違って馬がレースに集中していた」そうで、前走時とは一変した精神状態、大跳びで不器用な面もあるだけにベストの条件と思える東京・1マイルの舞台、さらに展開面も噛み合って
大きな勝利を掴みとった。
もっとも、現状では様々な注文がつくタイプであることも確かで、真の本格化はもう少し先か。ダート界の
「群雄割拠」といえる状況はまだしばらく続きそうだ。