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実質わずか1年で短距離王者へ、まだまだ奥の深さを秘めている
文/後藤正俊(ターフライター)、写真/川井博


いよいよ本格的な春のG1シリーズ開幕。その第1弾となる高松宮記念は、いきなり予想が極めて難しいレースとなった。昨年は1~3番人気馬が人気順通りに①~③着になる順当な決着だったが、今年はその①着ビッグアーサーが回避、②③着のミッキーアイル、アルビアーノが引退で不在。前哨戦として重要なシルクロードSを連覇したダンスディレクターもいない。

1番人気は昨秋のスプリンターズS勝ち馬レッドファルクスが推されたが、同馬は12月の香港遠征以来で休み明け。スプリンターズSは①~⑨着が0秒2差の大激戦だったので、展開、枠次第で着順が大きく変わっていた可能性もあり、全幅の信頼を置ける中心馬とは言えなかった。

馬場予想も難しかった。2012年から大幅改修された中京コースは、その年によって馬場状態がかなり違い、高松宮記念勝ちタイムも大きく変動していた。今年は前日までの傾向から比較的高速決着になりそうだと思われていたが、当日は朝から断続的に雨が降り、稍重発表ながら午後には馬場の荒れも目立ってきた。単勝10倍未満が6頭を数えたのも、ファンの迷いを象徴している数字だった。

だがレース結果は「短距離界の新星誕生」という見出しにふさわしい、4歳牡馬セイウンコウセイの完勝劇だった。ゲートが開くとシュウジとともにロケットスタートを決めた。スタートからコーナーまでが短い中京1200メートルは、一歩でも立ち遅れてたら外から被されてポジションを失ってしまうだけに、この会心のスタートが勝利への大きなポイントになった。

コーナーで包まれることなく楽に外目の4番手をキープ。直線に向くと芝の荒れていない馬場真ん中に進路を取り、逃げ込みを図るシュウジを直線半ばで楽な手応えのまま捕えた。内に進路を取った1、2番人気のG1馬レッドファルクスレッツゴードンキがコーナーワークを利して一瞬並んだが、幸騎手が追い出すとあっさり突き放し、②着レッツゴードンキに1馬身1/4差を付け、1分8秒7のタイムで初重賞制覇をG1で飾った。

荒れた馬場を苦にしなかったのは確かかもしれないが、自ら積極的に動いて好ポジションを取った同馬には、荒れた内を通らざるを得なかったレッドファルクスレッツゴードンキとは脚質の違い、枠の違いはあったにしても、「王道で勝つ」という意識の高さが感じられるレースだった。

同馬の初勝利は昨年3月のデビュー7戦目。前走のシルクロードS②着が重賞初挑戦で、実質わずか1年で短距離王者まで上り詰めたことになる。芝1200m戦は4戦3勝②着1回とパーフェクト連対を続けており、まだまだ奥の深さを秘めている。

血統は父アドマイヤムーン母オブザーヴァント(その父カポーティ)で、新ひだか町・桜井牧場の生産馬。14年セレクトセール1歳で、かつて西山牧場のオーナーブリーダーだった西山茂行氏1300万円で落札した。

西山氏は08年に西山牧場が生産部門から撤退した後は、所有繁殖牝馬を預託して個人で馬主生活を続けている。昨年の京阪杯を制したネロが生産撤退後の預託生産馬によるJRA重賞初制覇だったが、今回は初めてのセリ購買馬による重賞制覇となった。だが所有馬の育成は西山牧場育成センター(日高町)、現役馬の外厩は西山牧場阿見分場で行っており、今回の勝利もそれらの牧場スタッフの総力で勝ち取ったもの。伝統の「西山牧場」の力を見せつけたG1勝利でもあった。

父アドマイヤムーンはオースミムーンの障害6勝を含めてJRA重賞14勝目となったが、G1は今回が初制覇。自身はドバイデューティーフリー宝塚記念ジャパンCと中距離で輝かしい実績を残したが、その産駒はハクサンムーンに代表されるように短距離での活躍が目立っている。ミスタープロスペクター~フォーティナイナー~エンドスウィープから続く米国短距離界の名門父系が、セイウンコウセイによって日本でも花開こうとしている。

テン乗りの幸英明騎手の騎乗ぶりも見事だった。高松宮記念はコース改修前の08年ファイングレインで制して以来、9年ぶり2度目の制覇。JRA・G1は14年チャンピオンズCのホッコータルマエ以来で6勝目。スティルインラブとのコンビで03年牝馬3冠を制した経験もあり、中京の特殊なコース形態、荒れ始めた馬場、外枠の先行馬の動向などすべてを頭に入れた上で、大舞台での落ち着いたプレーで愛馬を勝利に導いた。

同馬とのコンビが今後も継続するかどうかはまだ判らないが、この完璧な騎乗ぶりを見た厩舎関係者は、41歳になりベテランの味を身に付けた幸騎手に、さらに素質馬へのオファーを出すようになるのではないだろうか。セイウンコウセイだけでなく、幸騎手の今後にも明るい道が開ける高松宮記念だったように思えた。