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いよいよ完成の域へ、“引退撤回”宣言も
文/吉田竜作(大阪スポーツ)、写真/森鷹史


今年からG2からG1と格上げされ、春の中距離王決定戦となった大阪杯。このレースの前後にあるドバイターフクイーンエリザベス2世Cといった国際G1に対して、JRAが切り札を切った形になったが、揃ったのはフルゲート割れの14頭。このあたりは思惑が外れたかもしれないが、レースとしては非常に盛り上がったと言っていいだろう。

香港ヴァーズでハイランドリールを破ったサトノクラウンダービー馬マカヒキ、昨年の大阪杯の覇者アンビシャス金鯱賞連覇で勢いに乗るヤマカツエースをはじめ、現在の日本の中距離界を背負って立つ顔ぶれ。ドバイターフを制したヴィブロスがここに出走したとして、勝てたと断言はできないはずだ。しかし、この新設G1を制し、歴史に名を刻んだのは長距離路線で活躍し、昨年の年度代表馬に選ばれたキタサンブラックだった。

母の父に名スプリンターを持つキタサンブラック「距離短縮の不安」を指摘されたのはある意味で滑稽だったが、実際にサンプルが少なく、中距離のスピード決着に実績が乏しかったのも事実。そして、内回りコースで先行馬が揃ったというのもキタサンブラックにとっては一抹の不安だったと言っていいだろう。

しかし、鞍上の武豊は勝利を疑っていなかった。「残り500mくらいから後ろを待たずに仕掛けようと。300mくらいに先頭に立とうと考えていた」とレース後に今回のプランを明かした。「メンバー的にある程度読みやすかった」というから、レースでの隊列はそれほど気にしていなかったのだろう。

ただ、キタサンブラック1頭が、自分の思い描いたラップを刻めば勝てる…そう考えていたからこその、早め先頭という強気な競馬だった。②着ステファノスはうまく流れに乗って3/4馬身差まで差を詰めてきたが、「自ら勝ちに行く」という競馬ではなかったのも確かだろう。決して遅くはないペースを自ら動いて勝ち切るのは、パートナーを信じ、勝つという信念に揺ぎないからこそ。3/4馬身の差はその数字や見た目以上にあったと言っていい。

キタサンブラック陣営が春の目標にあげていたのは、このレースと連覇がかかる天皇賞・春、そして、昨年③着に敗れた宝塚記念の3走。年度代表馬となって迎えた2017年は、おそらく他陣営や外野が思う以上に難しい。それは「これだけの馬ですし、ファンも多い。責任を感じていたし、ホッとした」と、ゴール後にガッツポーズまで出した武豊が振り返ったことでもよくわかる。

それはトレーニングを課す清水久調教師とて同じこと。実力も実績も申し分ない馬となれば「現状維持でいい」となるのが普通の思考だろう。しかし、そうして競走生活が下り坂になっていった馬は枚挙に暇がないほどいる。そうした競馬界を見てきたトレーナーだけに、現状維持という選択肢はなかったようだ。

この中間は坂路調教を3本に増やすなど、年度代表馬とは思えないほど普段の調教の強度をさらに上げてきた。その成果が感じられたのは当日の馬体重だろう。540キロはこれまでの最高馬体重。もともと体高と長い胴を持つキタサンブラック。ビルドアップしたことで、馬体はよりバランスよくなり、いよいよ完成と思わせる域に達した

次は、おそらくこの春3戦で一番の目標となりそうな天皇賞・春「次はサトノダイヤモンドと再戦。盛り上がりそうですね」武豊が自ら口にしたほどだから、有馬記念のリベンジ、そして春の盾連覇への自信は相当にあるのだろう。

ただ、この日、キタサンブラックの走り以上に沸かせたのはオーナーの北島三郎氏の発言だった。レース後の共同会見で「もう自分の馬でなくなった感じ。ファンに喜んでもらえることをしたいし、引退というとがっかりしちゃうから。もう引退というのはやめました」“引退撤回”を宣言したのだ。これには詰めかけた報道陣も騒然。代表インタビューのアナウンサーも問い直す一幕があったほどだ。

ただ、これはあくまで無期限延期という意味合いが強そう。「皆さんに見送られて、いい形で北海道へ帰してやりたい」。ファンあっての仕事というものを実感してきた北島三郎さんだからこその発言だったのだろう。秋には海外遠征も視野に入るが、ファンが引退を納得する結果と言えば…。さらに進化を遂げた16年の年度代表馬なら、日本競馬の悲願さえも達成してしまうかもしれない。その時、かの地で「祭」が歌われることを願ってやまない。