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今回の勝利だけは格別な思いだったのではないか
文/後藤正俊(ターフライター)、写真/川井博


昨年に続いて「戦国ダービー」との前評判だった第84回日本ダービーだったが、終わってみれば昨年の3、2、1番人気と同様に、2、3、1番人気の堅い決着になった。レースの主役は昨年サトノダイヤモンドでハナ差②着に泣いたルメールだった。

弥生賞で②着に逃げ粘ったマイスタイル横山典が3番枠を利して楽に先手を奪い、トラストが積極的には競り掛けなかったため、前半1000mが63秒2の超スローペース。このペースにいち早く反応したのがレイデオロルメールだった。

この63秒2というタイム表示をまるで見ていたかのように、または前を行くペルシアンナイトがスローペースに折り合いを欠き、ブレーキを踏んだ瞬間を見計らったかのように、向こう正面で後方5番手から一気に仕掛け、逃げるマイスタイルの直後まで付けてから折り合わせた。

ルメールの急激な仕掛けにペルシアンナイト戸崎アドミラブルデムーロも一緒に上がって行きかけたが、ルメールが先頭までは奪わなかったことからか、ペルシアンナイトは先団で、アドミラブルは中団までで思い留まった。名手同士の繊細な駆け引きが、スタンドからもっとも離れた向こう正面で展開されていた。

14日のヴィクトリアマイル、21日のオークスと2週連続で東京のG1を制して馬場状態を熟知し、レイデオロにはデビュー戦からこれまで4戦すべてにまたがってきたルメールの、綿密な計算に狂いはなかった。直線で馬場の良いコース中央を選んで走ったレイデオロの上がり3ハロンは33秒8。4角5番手のスワーヴリチャードが33秒5、4角12番手のアドミラブルが33秒3の末脚を使ったが、4角でのアドバンテージを3/4馬身、さらに1馬身1/4差できっちりと守り切った。ダービーの大舞台で僅差に写る着差でも、ゴール前では手綱を緩める余裕すら見受けられた。

同じようなレースを1ヵ月前にも見た。香港・クイーンエリザベス2世Cのネオリアリズム・モレイラだ。前半800mが54秒8の超スローペースになると6番手から一気に先頭に立って押し切った。後半の800mは44秒8で、前半とは10秒もの差がある極端なレースとなったが、ゴール前まできっちりと保たせた。ルメールモレイラといった世界的な名手たちの寸分の狂いもない体内時計と、自馬を含めた出走全馬の能力把握の的確さを、改めて思い知らされた。

もちろんレイデオロの高い能力があったからこそのダービー制覇だった。2歳時は新馬葉牡丹賞ホープフルS(G2)といずれも完璧なレース運びで3連勝。ホープフルSのG1昇格はレイデオロのレイティングがその大きな要因になった。皐月賞こそ⑤着敗退したが、これはぶっつけ本番のローテーションによるものとはっきりしている。

単に末脚の切れだけでなく、今回のような早い仕掛けで粘り切る持久力も示した。スローペースでも引っ掛からず、早めに先頭に立ってもソラを使うことはなく、ステッキが入ってもヨレない。キャリアまだ5戦とは思えない大人びたレースぶりを見せており、今後もレース展開、距離にも左右されない盤石の強さを発揮していく可能性が高い。やや気は早いが、現役最強キタサンブラック相手にどのような戦法で勝負を挑んでいくのか、興味が尽きない。有馬記念でその対決が実現することを心待ちにしたい。

皐月賞の敗退も、いまにして思えばこれこそが藤沢流のローテーションだったのだろう。開業31年目にして初のダービートレーナーとなった藤沢師だが、ダービー挑戦は今回が19頭目とトップトレーナーとしてはごく少ない。常日頃から「レースに合わせて馬を仕上げることはしない。馬の成長、調子に合わせて最適なレースを使っていくだけ。強いお馬さんにするのが調教師の仕事で、3歳クラシックを勝つことは決して最大の目標ではない」と主張している。

ホープフルS後に休養させて、トライアルを使わずに皐月賞に出走させたことも、ダービーに目標を置いていたわけではなく、レイデオロを古馬になって最強馬にし、種牡馬としてその血を広げていくためのステップに過ぎなかったのだろう。

その藤沢師が育て上げた名馬の1頭がシンボリクリスエスであり、ダービーはタニノギムレットの②着に敗れたが、3歳秋に天皇賞・秋ジャパンC有馬記念のローテーションで①③①着。4歳秋もまったく同じローテーションで①③①着。最後の有馬記念は②着に9馬身差をつける「完成形」に育て上げ、生産界に送り出した。

その産駒はエピファネイアの②着がダービー最高成績だが、母の父として自厩舎のレイデオロと、また今回③着となったアドミラブルを輩出している。レイデオロ祖母レディブロンド藤沢厩舎で、5歳まで待ってからデビューさせて5連勝。6戦5勝の成績で5歳限りで引退させて繁殖入りし、その2番子がレイデオロ母ラドラーダとなった。レイデオロ藤沢師の想いと信念が詰まった母系を持つ馬であり、「ダービーも単なる1レース」と主張する藤沢師でも、今回の勝利だけは格別な思いだったのではないだろうか。