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動かずに待つこともまた戦略、自分の競馬に徹してチャンスをものにした
文/鈴木正(スポーツニッポン)、写真/川井博


先週のダービー。最後に勝負を分けたのは「動いたこと」にあった。言うまでもなく、向正面でルメール&レイデオロがポジションを上げ、スローペースの大一番を制したことを指す。そのダービーの余韻が残る東京競馬場。安田記念を制したのは「動かず自分の流れを守った」サトノアラジンだった。

動かなかったというのはレース中の位置取りのことではない。サトノアラジンはここ1年、前哨戦-本番-休養-前哨戦-本番というローテーションを守り、鞍上を川田騎手に固定し続けた。同じ姿勢でファイティングポーズを取り続けたことを指す。そして、その川田騎手はヒーローインタビューでこう強調していた。「天候と枠がかみ合った。このチャンスは逃せなかった」。待った末に絶好の条件が整った。そう、待っていれば、いつかは流れが自分に向くことがある。動かずに待つこともまた戦略だ。

川田騎手の騎乗ぶりも冷静そのものだった。他馬と互角のスタート。ハイペースで流れながら馬群が凝縮し、いかにも追走がハードそうな先団を遠くに見ながら、後方4番手付近を追走。先団の喧噪からはるか遠く、ここならサトノアラジン川田騎手は自分のリズムに集中できたに違いない。

4角ではスムーズに大外。このあたりになると、だいぶ前と後ろも接近し、後方からでも届きそうな位置関係になっていた。イスラボニータは前が空かない。レッドファルクスも外を回ることを避けたが、前にはびっしりと壁。ワンテンポ遅らせて、外に持ち出さざるを得なくなった。ここをスムーズに運べたのは川田騎手も希望した外枠の効果によるものだ。思いの外、いいスタートが切れたことも含め、ここまではすべてが理想的だった。

そして直線。外からしっかりと伸びるサトノアラジンロゴタイプも内で懸命に踏ん張る。グレーターロンドンもグッと前に出てきた。イスラボニータエアスピネルもようやく壁を抜けて脚を伸ばす。しかし、すべてをスムーズに運んだサトノアラジンロゴタイプをクビ差かわしきったところがゴールだった。

今年の東京開催。芝コースは直線でどの位置を通るかが結構、重要となっていた。ダービーのレイデオロが通った位置がCコースにおいてはベストと思われつつも、最内もまずまず悪くないのではという雰囲気で安田記念を迎えていた。だが、そういった細々した意識を軽く吹き飛ばすような大外からの追い込み。このあたりも自分の競馬に徹した者の強みを感じさせた。

②着ロゴタイプも底力を存分に見せつけた。スローに落として逃げ切った昨年とは一変。厳しいラップを刻み続け、先団のスタミナを奪った。4角10番手以降の馬が⑦着までを占めた中、先団でただ1頭、クビ差の②着に踏ん張ったことは大いに評価できる。昨年は鞍上との呼吸のうまさを証明し、今年は純粋に高い戦闘能力を実証してみせた。レコードでエピファネイアを封じた皐月賞同様、種牡馬入りの際の大きなアピールポイントとなるであろう。

負傷でダービー週は騎乗できなかった田辺騎手。今回の逃げにはいろいろな意味が込められていたように思う。まずは超スローのダービーを見て、G1はやはりもう少し流れるべきだという意識があったのではないか。あくまで想像ではあるが「今週は締まったラップの競馬をしよう」という意識が田辺騎手のみならず、ジョッキールーム全体にあったような気がしてならない。そして、田辺騎手にはこんな心理も働いたのではないか。昨年がスローでのVであったから、今年はハイラップで連覇したい。それでこそ力の証明…。惜しかった。実証する寸前までいったがサトノアラジンの快走の前に阻まれた。

競馬というものは、その1レースで完結し切ってしまうものではない。ダービーの結果が微妙に影響して、安田記念のペースが上がり、その速い流れを味方として、そんな展開を息を潜めて待ち続けたサトノアラジンが勝つ。そういう面白さもあるのだ。そして、この安田記念を受けて、次にどんな動きが起こるのかを予想することが、また競馬の面白さだ。