今年もハンデ戦の妙を味わえるレースとなった
文/出川塁、写真/稲葉訓也
96年の新設当初は別定戦だった
マーメイドSが、ハンデ戦として行なわれるようになったのは06年のこと。それから昨年までの11年間で、53キロ以下の馬が③着以内に入らなかったのはマルセリーナが勝った13年の1回のみ。また、この11年間で好走した延べ
33頭のうち、24頭までを53キロ以下の馬が占めている。まさに
軽ハンデ馬のためのレース。それが
マーメイドSという重賞だった。
今年も軽ハンデの人気薄で
一攫千金を企んでいた方が少なくなかったはずだ。ところが、①着の
マキシマムドパリが55キロで、②着の
クインズミラーグロと③着の
アースライズが54キロと、このレースにしては拍子抜けするほど
常識的な決着に収まった。もちろん、そのこと自体に文句があるはずもないのだが、アテが外れてしまった穴党の方も少なくないことだろう。
ゲートが開いてまず飛び出したのは、大方の予想通り
プリメラアスールだった。そのまますんなり先頭に立つかと思われたが、1周目のゴール板を通過したあたりで大外枠の
ショウナンバーキンが競りかけてきて、1コーナーでは2頭の雁行状態に。
プリメラアスールの
酒井学騎手は再び手綱を動かしてハナを奪うのだが、これでは楽な逃げにはならない。決して本意なアクションではなかったはずだ。
この2頭の後ろに、1番人気の
トーセンビクトリー、3番人気の
マキシマムドパリが続き、さらに2番人気の
クインズミラーグロ、4番人気の
ビッシュと、人気どころが固まって追走するかたちとなった。
その後は馬順の大きな入れ替わりはなく、3コーナーを過ぎたあたりから徐々にレースが動き始める。そして、序盤に競り合うかたちになったのが堪えたのだろう、前を行く2頭の手応えは4コーナーを待たずして怪しくなり、その後ろにいた人気馬たちが自然と前に押し出される格好に。勢いがよかったのは
マキシマムドパリと
ビッシュで、なかでも前者の動きがいい。
その
マキシマムドパリは直線を向いてまもなく先頭に立つと、直線でも脚色はまったく衰えない。先に脚が上がった
ビッシュに代わって、外から
クインズミラーグロ、内からは
アースライズが迫り、さらに大外から
キンショーユキヒメも末脚を伸ばしてくるが、芦毛の馬体を踊らせて涼しげに押し切った。激戦の②着争いをハナ差で制したのは
クインズミラーグロとなった。
これで
マキシマムドパリは、今年1月の
愛知杯に続いて
重賞2勝目。直線で行き場を失って
消化不良のレースに終わった前走、
大阪城Sの鬱憤を見事に晴らした。通算成績は
[6.3.7.5]で、掲示板を外したのは15年の
オークス⑧着、昨年の
エリザベス女王杯⑨着、今年の
大阪城S⑬着と、わずかに3戦しかない。完全に前が詰まった
大阪城Sを参考外とすれば、G1以外では掲示板を外したことがない堅実派。ここに来てさらに地力をつけているのも間違いなく、秋の
エリザベス女王杯でも楽しみな存在になりそうだ。
堅実という点では②着の
クインズミラーグロも負けてはいない。今年に入ってからは牝馬限定重賞ばかりを4戦使われ、
③③③②着とすべて馬券圏内を確保。ワンパンチ足りない善戦ウーマンといえなくもないが、昨夏から休みなく使われていることを思えば実に立派な馬である。
一方、1番人気の
トーセンビクトリーは上位人気のなかでは唯一見せ場すらつくれず、⑨着に敗退にしてしまった。元々、あまり口向きのいい馬ではないのだが、このレースでは3~4コーナーにかけての口向きが終始悪く、いかにも走りづらそうにしていた。勝負どころで狭いところに入ったことで嫌気が差したのだろうか。
ひとつ付け加えれば、
トーセンビクトリーにとっては56キロのハンデが気の毒だった感もある。同じように牝馬限定のハンデG3を1勝という実績の持ち主である
マキシマムドパリは55キロ。また、両馬とも出走した
15年秋華賞では
マキシマムドパリが③着、
トーセンビクトリーが⑧着だったことを考えても、
トーセンビクトリー目線でいえば
納得のいかない設定ではあったかもしれない。
あるいは、前走の
大阪城Sで⑬着に大敗していたことが考慮されて、
マキシマムドパリは55キロにとどまったのかもしれない。だとすれば、塞翁が馬であり、禍福は糾える縄のようでもあったか。例年のような軽ハンデ馬の台頭こそなかったものの、今年の
マーメイドSもハンデ戦の妙を味わえるレースとなったのは間違いなさそうだ。