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「サトノクラウンが勝った宝塚記念」と記憶してほしい
文/吉田竜作(大阪スポーツ)、写真/森鷹史


天皇賞・春大阪杯を制し、あらかた古馬戦線を“天下統一”していたキタサンブラック。しかし、安泰の世というのは競馬の世界においては長く続かないもの…それを改めて知らしめる宝塚記念となった。

パドックでも普段と変わらぬ姿で周回していたキタサンブラックだったが、ゲートを切るとこれまでとは違う姿を見せてしまう。ハナを切るところまで想定されていたが、行きっぷりがもうひとつ。1コーナーであっさりと主導権争いを譲ると、3番手に控える。すると、あろうことかこれまであまり見せなかった“掛かる”仕草を見せたのだ。無敵を誇った野武士も、やはり激戦の影響が心身を蝕んでいたのかもしれない。

一方で、前走の大阪杯キタサンブラックに敗れ、⑥着と苦杯をなめたのがサトノクラウン。前年の香港ヴァーズでは世界トップランカーのハイランドリールをマッチレースで下していたことで一気に評価が上がっていたが、それを裏切る結果に。ショックを受けたのはファンもそうだろうが、何より堀調教師自身が一番のショックを受けたことだろう。

しかし、当時のマイナス12キロの馬体重が示すとおり、レース当日にベストの状態に持っていけなかったことが敗因なのは明らか。それは堀調教師も認めるところで「前走と今回との違いは状態面の違いだと思います」と言い切った。

ただ、敗因を分析するだけなら誰でもできるもの。問題は、そこから成功へのカギを見つけられるかどうか。そして、堀調教師はこれまでのキャリアの中でそれをしてきた人間。今回もしっかりと対策を取っていた。

「環境の変化と輸送に繊細なところがあるので。今回はその対策を取って来ました。まずは前々日輸送。そして、馬運車の中で緊張するので枠場を広げてもらいました」堀調教師。しかし、もっとも心を砕いたのは阪神競馬場関係者との折衝ではなかったか。

通常、関東馬が阪神競馬場へくると、一般道沿いの馬房が割り当てられる。しかし、ロケーション的にもここは往来が多く、雑音も大きい。サトノクラウンのような繊細な馬はこれを気にしてしまうこともあるのだ。

なので、「1週前に阪神へと管理馬(ベルキャニオン、ストロングバローズ)を使った時に検証しまして。それで競馬場にかけあって、普段は関西馬が使う場所を割り当ててもらいました」。この対策が見事にかみあった。土曜日の朝のスクーリングでも落ち着いて装鞍所を周回。「これからカイバを食べてくれれば」と帯同した高橋助手も語っていたが、それが現実のものとなって、前走比プラス10キロで出走することができたのだ。

この時点で世界最強馬を破った、香港と同様のパフォーマンスができたのだろうが、何と言っても敵もその場所を目指す馬。一筋縄ではいかない。ここからは鞍上のデムーロの仕事だ。「向正面で少し流れが落ち着きそうなところでミルコが動いていって。この馬の流れに仕向けてくれた。上手だった」とトレーナーが振り返ったとおり、向正面を少し過ぎたところでデムーロは手を動かしてポジションを上げて行った。

そして、キタサンブラックに並ぼうかというところで他馬も連動。ラスト5ハロンから11.6-11.8-11.7-11.8-12.2というラップを見ても、ここから息の入らない流れになったことがわかる。しかし、デムーロはその瞬間にあっさりと控えて脚をためたのだ。まさに、「仕向けた」という言葉がピタリとはまる手綱さばき。そして、先行したキタサンブラックらが苦しくなるのを尻目に、抜群の手ごたえで直線へ。大きなストライドで末脚を伸ばすと、あっさりと国内初G1タイトルを奪取してみせた。

「ハイランドリールがアスコットで勝っていたので。自信をもって臨んだ。直線に向くまでも馬なりだったし、そこからはすごく気持ちよかったよ。さすがG1馬。今回はうれしいね」デムーロも満面の笑みでパートナーを称えた。敗れたキタサンブラックが本調子を欠いていたのは確かだろうが、万全であっても今回のサトノクラウンに勝てたかどうか…それは神のみぞ知るところだが、「キタサンブラックが敗れた」レースではなく、「サトノクラウンが勝った宝塚記念と記憶してほしいものだ。

キタサンブラックはこの敗戦で海外遠征をほぼ断念。サトノクラウン「サトノダイヤモンドが海外へ、春は国内と言われていた」(堀師)という状況だったが、これで潮目も変わってくるかもしれない。何より、現在のヨーロッパで最強とされる馬を破ったのがこの馬。かの地で再戦となれば…この馬が日本競馬の悲願を達成してくれるかもしれない。「勝ったことで選択肢が出てくるかもしれません」とトレーナー。吉報が訪れる事を一ファンとして待ちたい。