快勝の裏にある戸崎騎手の“勝負勘”も見逃せない
文/編集部(T)、写真/森鷹史
七夕賞が夏の福島2週目の開催に移った13年以降、決着時計は
1分58秒台のタイムが並んでいて、
“荒れ馬場で時計がかかる”福島は昔の話に。このレースと同じコースで、ふたつ前に行われた
織姫賞(500万)の決着時計は
1分58秒8が記録されており、今年の
七夕賞も高速決着が予想された。
そして今年は上位人気が拮抗する形となり、
ゼーヴィントが1番人気(3.4倍)に推され、2番人気(4.1倍)が
マルターズアポジー、3番人気(5.5倍)が
ヴォージュ。以下
スズカデヴィアス、
マイネルフロストが単勝10倍以内となった。
1番人気
ゼーヴィントは昨年の
福島記念②着馬で、2番人気
マルターズアポジーは①着馬。人気が逆転した理由はハンデ(
ゼーヴィント57kg、
マルターズアポジー57.5kg)もあっただろうし、脚質的な理由もあったのかもしれない。
というのも、
マルターズアポジーは誰もが認める典型的逃げ馬で、いわゆる
“逃げないとダメ”なタイプ。そして
マルターズアポジー自身、これほどの人気を集めたのはOPに上がって初めてとなった(それまでは今年の
小倉大賞典で4番人気)。
さらに今回は上位人気馬の宿命で、
マルターズアポジーにとっては
これまでにないほどマークが厳しくなった。スタートでは
フェイマスエンドにハナを叩かれそうになり、競り合いつつ1コーナーには先頭で入ったが、そうなると今度はペースが速くなる。
前半1000m通過が58秒0とハイペースになり、3コーナー手前で早めに来た
マイネルフロスト(これも驚きだったのだが)に交わされると、もう抵抗できなかった。
その
マイネルフロストはゴール直前まで先頭にいたが、これを交わし、先頭でゴールを駆け抜けたのが
ゼーヴィント。ここ3戦は重賞で②着が続いていたが、昨年の
ラジオNIKKEI賞以来となる重賞2勝目で、
1分58秒2という好タイムでの快勝となった。
その勝因について考えてみると、もちろん馬の力もあるが、
戸崎騎手の手綱捌きも見逃せない。
ゼーヴィントのレースを見直すとお分かりいただけると思うが、
戸崎騎手は4コーナー手前で早めにムチを入れている。正直なところ、自分などは
「このペースの速さならもう少しじっくり構えても良さそうなのに、手応えがあまり良くないのか?」とさえ感じた。
しかし、
マイネルフロストが見せた粘りは、
その判断が正しかったということを証明している。これは想像だが、前述した
織姫賞では
戸崎騎手(
コパノマリーン)が逃げ切り勝ちを収めていて、この時の感触で
「じっくり構えたら届かない」といち早く感じたのかもしれない。いずれにしても、この判断がこの勝利に繋がったことは間違いないだろう。
戸崎騎手自身、この日は6回騎乗して5勝を挙げていて、夏の福島開催が始まってからこの日が終わった時点で早くも
福島だけで13勝。その結果も凄いのだが、このレースでも見せたような
“勝負勘”の良さも見逃せないのではないだろうか。
一方、⑪着に敗れた
マルターズアポジーだが、
「今回はマルターズアポジー包囲網が組まれたのか!?」とさえ感じさせるほどの厳しい展開だった。快勝後の大敗も珍しくないタイプで、これもある意味
“逃げ馬らしい”とさえ思わせる。少しでもマークが緩んだらあっさり巻き返しもあり得るはずなので、今後も要注意であることは間違いないだろう。
ゼーヴィントに話を戻すと、デビュー3戦目に初勝利を挙げてから8戦連続で馬券圏内に入っているが、順調なように見えてそうでもない。3歳春は
プリンシパルSで③着となって
ダービーの出走権を逃し、秋は
セントライト記念で②着に好走したが、疲れが出て
菊花賞を断念。今年緒戦の
AJCCで②着に入るも脚部不安で休養入りと、
G1への出走を目前にして何度も阻まれてきた。
今回は
サマー2000シリーズの初戦ということで、そちらに関する動向も気になるところだが、秋シーズンの古馬にとって芝2000mの大一番といえば
天皇賞・秋。さて、
ゼーヴィントがここからどんな活躍を見せてくれるか、期待して見ていきたい。