秋に向けて期待の膨らむ鮮やかな逃げ切り勝ちだった
文/浅田知広、写真/川井博
アエロリット、
アドマイヤリードと
G1馬2頭が駒を進めてきた今年の
クイーンS。思い出すのは03年のこのレース。ファインモーションとテイエムオーシャンを相手に、7番人気のオースミハルカが鮮やかに逃げ切った一戦だ。……などと思って当時の出馬表を見直してみれば、ファインモーション
58キロ、テイエムオーシャン
59キロ。いや、そこまで背負って、よくこんなとこに出てきたな、という話である。
当時はそのファインモーション、テイエムオーシャンという
古馬G1馬2頭を相手に、3歳52キロのオースミハルカが逃げ切り勝ち。しかし今年は少々様相が違い、まずG1馬2頭が3歳と古馬。しかも、2頭ともG1馬でありながら
やや実績不足(03年の2頭に比べれば)で、
アエロリットは賞金でプラス1キロ止まりの52キロ。そして
アドマイヤリードは加増なしの55キロ。お互いの斤量差が影響することはあっても、他馬に斤量差で負けるというパターンはほぼない、という構図に変わっている。
一方で
「やや実績不足」の部分はコース、距離についても言え、3歳
アエロリットは初めての1800m以上。そして古馬
アドマイヤリードは直線の長いコースでばかり好走が続き、小回りかつコーナー4回の競馬は今回が初めてである。後から考えれば、03年のオースミハルカは翌年の
クイーンSで
連覇を果たすなど札幌
[3.0.2.0]の巧者だっただけに、今年も斤量差ではなく、適性で上回る馬が出てくる可能性も十分にあるだろう。
そんな候補を探ってみれば、1800mなら
[4.1.3.2]の
トーセンビクトリーや、
[2.1.3.1]の
マキシマムドパリなど。札幌芝なら
[1.3.0.0]で昨年②着の
シャルール、
1戦1勝の
ヤマカツグレースあたりだろうか。
その
ヤマカツグレースを制し、
クロコスミアがハナを切る展開になるのかと予想していたが、スタート直後の併走からコーナーワークで先頭に立ったのはなんと
アエロリットだった。いや、ハナを切るのみならず、そのまま後続をぐんぐんと引き離す大逃げ。1~2コーナー中間で3~4馬身、向正面入口では6馬身以上はあっただろうか。
そして800m通過は46秒8。洋芝札幌、しかし開幕週でなんともペースは読みづらいが、46秒8なら少なくともスローということはない。これが
アエロリットにとって速いかどうかが問題だ。
ただ、どうやら後続にとっては速かったようで、2番手から前を追っていった
シャルールは3~4コーナー中間で後続に捕まって、直線で
不利もあって最下位に。かわって2番手に上がった
ヤマカツグレースも直線で失速して⑨着と、先行勢の中ではもう
アエロリットが何枚も上だった。
では末脚勝負の馬に向いたかといえばそうでもなし。その最たる例がもう1頭のG1馬
アドマイヤリードだった。3~4コーナーで大外からまくり気味に仕掛けたものの、
距離損が大きくなって直線に向いたときはほぼ最後方に逆戻り。開幕週の絶好馬場ならよく見かける展開で、そこから盛り返しながらも掲示板外の⑥着に敗退した。
先頭を行く
アエロリットは、残り600mからの「12秒1」が見た目上、失速なのかひと息入れたのかわかりづらかったが、これは結局後者。ラスト2ハロンを11秒5-11秒9でまとめられては、中団で距離損なく立ち回った馬も歯が立たない。1番枠を活かした1800m巧者の
トーセンビクトリーが直線で鋭く脚を伸ばしたが、
アエロリットにはまったく及ばず、②着を楽に確保した、というところまで。
アエロリットがこれに2馬身半をつけ、鮮やかな逃げ切り勝ちを収めた。
3連続②着後の
桜花賞では末脚勝負を試みて⑤着だった
アエロリットだが、前走の
NHKマイルCは、16番枠から好位でかなり外々を回りながらも完勝。馬場の良い今回はハナを切って
距離損なく1800mを走り切り、いっそう
この馬の持ち味が出た競馬だったと言えるだろう。
どうにも勝ち切れなかった昨秋以降から一変した姿を見せて、さあ次は
秋華賞か。距離は2000mにさらに延びるが、今回の内容から3歳牝馬同士なら十分に守備範囲内だろう。ハナを切ろうが譲ろうが、
このスピードは強力な武器になる。
そして、これをピタリとマークしてソウルスターリング、なんて競馬も見たかったが、どうやら
天皇賞(秋)目標とのこと。ただ、同じく先行型の
皐月賞1番人気ファンディーナは出てきそうなだけに、これはこれで、どんな展開、どんな勝負を演じてくれるのか。もちろん、あまり派手にやり合うようだと後続からアドマイヤミヤビ、というパターンもあり。ソウルスターリングが抜けたとしても、
まだまだ楽しみな3歳牝馬の戦いが見られそうだ。