今後はG2やG1でも「ハマる」パターンだって十分にあり得る!?
文/浅田知広、写真/森鷹史
登録馬をざっと見渡してまず思ったのは、(3連勝中の)
ウインガニオンはそろそろ人気にはならないのか、ということ。これが「以前は重賞でもそこそこ」くらいの馬だったり、あるいは「連続上がり最速」のような勝ち方をしていれば、前走の
中京記念(5番人気)の段階で1~2番人気という話。しかし、もともとオープン実績のない馬が逃げ切りでの連勝。その
中京記念は2番手に控える形で勝ったものの、今回もどうやら上位勢の一角、くらいの評価が多そうで、実際6.6倍の4番人気にとどまった。
その
ウインガニオンは先行型だが、どうも近年の
関屋記念はその
「先行型」がカギを握っている。05年から09年は勝ち馬5頭中4頭は上がり3ハロンがメンバー中1位、もう1頭は2位と、つまり中団以降からしっかり脚を使った馬が勝っていた。ところが10年にレッツゴーキリシマが逃げ切ると、
以降の勝ち馬はすべて上がり4位以下。ここ4年は夏の新潟3週目になった影響もあるかもしれないが、
ある程度前につけた馬でなければ勝てていないのだ。
そういった視点で今年のメンバーを見ると、1番人気の
メートルダールは降級の前走こそ早めの競馬だったが、どちらかと言えば差し。2、3番人気の
ロードクエスト、
ブラックムーンは差し~追い込みで、近年の勝ち馬とはタイプが違う。となれば、やはり
ウインガニオンが
①着候補最有力、という印象だった。
そんなレースでポンとハナを切ったのは昨年の
福島記念や、今年の
小倉大賞典を逃げ切った
マルターズアポジー。マイル適性がどうか、というレースだったが、
ウインガニオンが前走で控えても結果を出し、ほかに同型不在のメンバーで、この好スタートを切れれば、あとは自分のペースで逃げるのみだ。
注目の
ウインガニオンはダッシュがやや鈍く、気合いをつけつつ向正面半ばで2番手まで進出。人気どころでは
ロードクエストが一番前だったが、それでも後方集団の前あたりで折り合いをつけるのにひと苦労。
メートルダールも行き脚が悪く、後方で
ブラックムーンと併走する形になった。
前半の800m通過は46秒6。夏の「新潟6日目」になった4回中3回は今年より速く、昨年などレッドアリオンが45秒7で逃げていたのだから、決して速くはない。
小倉大賞典を前半46秒2で逃げ切っている
マルターズアポジーにとっても、
キツくはない流れに持ち込んだと言えるだろう。これを3馬身ほどの差で追走した
ウインガニオンにも、もちろんいいペースだ。
そして直線、その
ウインガニオンがまったく楽な手応えで前を見ているな、と思ったのは、残り400mまでだった。この600mから400mの1ハロンが11秒1、そして続く1ハロンは11秒0。前を行く
マルターズアポジーの脚色がまったく衰えないのだ。
こうなると、直線入口での3馬身差は実に大きい。そして、
ウインガニオンより後ろにいた各馬はもっと厳しい。ましてや、中団以降にいた人気どころはまったくもって出番なし。中では中団にいた
ロードクエストが大外からそこそこ脚を使ったが、折り合いに苦しんだ面もあり、あの衝撃の
新潟2歳Sのような脚はとても使えそうにない。その内にいた昨年の覇者
ヤングマンパワーが一瞬いい脚を見せたものの、それも残り200mまでだった。
最後は
マルターズアポジーも12秒2と止まったが、
ウインガニオン以下もピタっと止まって、各馬とも
マルターズアポジーどころか、自分のすぐ前にいる馬を捕らえようとするのが精一杯。
「12秒2」という数字以上に時計を要したような各馬の脚色で、地方競馬の条件戦でも見ているような印象すら受けたが、それだけ
マルターズアポジーがいいペースで運んだということだろう。結局、
ウインガニオンに1馬身1/4の差をつけて、
マルターズアポジーが
鮮やかな逃げ切り勝ちを収めたのだった。
マルターズアポジーは昨年の4月以降、
5勝・
ふた桁着順5回という、逃げ馬のかがみのような成績で重賞3勝。前後半4ハロンが46秒2-48秒2だった
小倉大賞典のイメージが強烈だが、重賞初制覇の
福島記念は前後半5ハロンが61秒0-59秒8、そして今回も前後半4ハロンが46秒6-45秒6と、この両レースは後半のほうが速い。とはいえ、ハナが条件だけに後続が下手に突っつけば撃沈覚悟のハイペースにもなるだけに、好位勢にはどうにもやっかいな相手だ。
その
「やっかいな相手」という印象は、逃げ馬にとってマークされる要因になる一方で、味方にもなり得るもの。
うまくハマれば①着、
ダメならふた桁着順。今後はG3だけではなく、G2やG1でも
「ハマる」パターンだって十分にあり得ることを心しておきたい。